ふたりの博士のくやしい思い
評者: 山室恭子
/ 朝⽇新聞掲載:2018年09月01日
地震学をつくった男・大森房吉 幻の地震予知と関東大震災の真実
著者:上山 明博
出版社:青土社
ジャンル:伝記
ISBN: 9784791770816
発売⽇: 2018/06/21
サイズ: 19cm/269p
地震学をつくった男・大森房吉 幻の地震予知と関東大震災の真実 [著]上山明博
ふたりの博士が雲の上から列島を見下ろしています。ともに日本の地震学の基礎を築いた大森房吉と今村明恒の両博士です。
「95年前も土曜日だったね。この日が来るたびに思うよ、今村君。君が正しかったのかもしれない、と」
「いえ、大森先生。たかだか三つの地震の間隔から、関東大激震近しと不安を招いてしまい軽率でした」
「でも、結果は当たりであった。私も震源点の分布から、帝都地震の可能性を探ってはおったのだが」
「まぐれ当たりですよ。先生に叱られて『九分九厘迄は大丈夫だが残りの一厘だけは注意する必要』と慎重に発言しても、新聞は『地震に脅かさるゝ東京』と書き立ててしまうのです」
「学理上の根拠が無くとも警告を発するのが科学者の責務なのだろうか。人類はいまだ地震の予知に成功しておらぬ。我々が目ざしたのは叶わぬ夢だったのか」
「くやしいですね」
ふたりの博士は黙って列島を見つめておりました。