- 仏像の秘密を読む [著]山崎隆之(東方出版)
- 仏像-心とかたち- [著]望月信成・佐和隆研・梅原猛(NHK出版)
- ほとけを造った人びと 止利仏師から運慶・快慶まで[著]根立研介(吉川弘文館)
- 仏像の顔 形と表情をよむ[著]清水眞澄(岩波書店)
(1)著者は、東京芸術大学で保存修復学を学び、愛知芸術大学で長年仏像の研究と保存修復に携わってきた山崎隆之さん。各時代の代表作を取り上げ、その技法から制作者の意図を読み解いています。
「一般的にはあまり知られていないかも知れませんが、制作技法から仏像を知るには最適な本です。保存修復の現場にいた経験が各章に盛り込まれています。例えば、〈錐点(きりてん)〉は、彫るときの基準点として仏像に残る小さな穴ですが、修理に際してこの点を見出したエピソードなど面白いです」
(2)は、仏教美術史学者の望月信成さんと佐和隆研さんの話に、哲学者の梅原猛さんが加わりまとめた本です。NHKのテレビ番組が書籍化されたもので、1965年の初版以来、版を重ねているロングセラーです。当初は2冊でしたが、現在、〔完全版〕として1冊にまとまっています。
「ちょうど私が、仏像の研究を始めた大学生の頃に読んで、一層仏像に興味をもつようになった本です。この本では、信仰の対象である仏像とは何なのか、背景にある仏教はもとより歴史、文化、宗教などから、その本質が語られています。今回の特別展でも、形と共にそのバックグラウンドにある思想にも思いを巡らせてほしいのです。まさにこの本の副題〔心とかたち〕がキーになります」
(3)著者の根立研介さんは、京都大学大学院の教授。早くから仏師の研究に取り組み、特に平安から鎌倉時代の仏師とその組織、願主と造像の関係などの研究で知られています。
「この本は、仏師個人だけではなく、組織としての仏所(工房)や、願主、施主(注文主)との関係から仏師を考える一冊です。展覧会は仏師の感性と技術に焦点を当てていますが、この本はその仏師の感性と技術を育む環境を広く捉えているので、仏像を知るうえで非常に意味のある内容と思います」
(4)本の帯に、「〈いいお顔〉って、何?」とある通り、仏像の顔に着目した一冊。飛鳥から鎌倉まで、各時代の有名な仏像を分析しています。
「信仰の対象とされる仏像にとって、〈顔〉は特に重要です。人間の顔の形や表情は、骨格と肉付け、目や鼻や口など器官の形と大きさと配置で決まります。仏像も同じです。また、顔の中で特別な働きをする器官として〈眼〉を挙げ、彫刻である仏像に魂を入れて仏にする日本特有の儀式「開眼会」などについても説明しています」
仏像の展覧会は、有名な寺や地域、時代をテーマにしたものが目立ちますが、この特別展は、仏師と彼らが目指した表現に着目しています。清水さんは「仏像を造る側の立場に立った展覧会はあまり多くありません。実際に仏像と対面して、仏師のアーティストとしての一面を、自分の目で仏像から読み取ってください」と語ります。
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仏像ブームともいわれ、熱心にお寺を回る若い人も多いですが、実は「仏像鑑賞」は、近代に生まれた文化だったことを論じた一冊です。近代に入り、寺院から散逸した仏像は、ミュージアムという仕組みによって収集・保護されました。現代のミュージアムは、仏像に出会う機会を提供する一つの空間といえるでしょう。