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木尾士目「はしっこアンサンブル」 声に劣等感抱く少年が合唱部に

『はしっこアンサンブル』(1) [著]木尾士目

 一説によれば、8割の人が自分の声を嫌いだという。筆者もそうだが、本作の主人公の場合はより深刻。声変わりで極端に低くなった自分の声が恥ずかしく、しゃべらずにいたらますます声が出なくなってしまった。工業高校への進学理由のひとつが「声を使わない仕事に就けるかも」とは劣等感をこじらせすぎだ。
 しかし、ひとつの出会いで運命は変わる。合唱部をつくろうとしている同級生が、彼の低音ボイスに目(耳?)をとめたのだ。「僕に出せない音域を出す声帯を持ってる」「君の声が必要なんだ」と言われておずおずと一歩を踏み出す主人公。そこから始まる青春部活群像劇である。
 工業高校の日常を生き生きと描きつつ、クセのあるキャラたちを無理なく紹介していく手際は一級品。「君の声の周波数測定させて!!」「何この周波数スペクトル」「一体どんな発振の仕方すればこんな周波数が!?」といった理系オタク的語り口も絶妙だ。
 画面から音は出ないが、文字の大きさや書体で声や歌の雰囲気が伝わってくる。声が出る仕組みの解説やトレーニング法もなるほど納得。各キャラの背景も含め、いろんな要素が重層的に響き合う。その“音圧”に圧倒される。南信長(マンガ解説者)=朝日新聞2018年9月15日掲載