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僕のリリックにタブーはない 呂布カルマ

文:宮崎敬太、写真:佐々木孝憲

 トレードマークはド派手な柄シャツとオールバック。昭和のヤクザ映画に出てくるチンピラのような服装でラップする呂布カルマの存在感は唯一無二だ。MCバトルでは無類の強さを誇り、オリジナル楽曲「ヤングたかじん」ではやしきたかじんにオマージュを捧げる。いつも次の一手が読めない人だからこそ、アイデアの源泉が知りたくなる。

[MV] 呂布カルマ - ヤングたかじん

 「もともとマンガ家になりたかったんですよ。マンガが大好きで、小さい頃からキャラクターの画を描いて遊んでました。その延長で真剣にマンガ家になりたくなって。美大でイラストの勉強もしました。僕が好きなのは、筋肉ムキムキの男たちが戦うマンガ。だから『少年ジャンプ』は早々に読まなくなった。これは明確に覚えてるんですが、ジャンプで『封神演義』が始まり、『幽☆遊☆白書』や『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』が流行ってる頃、主人公がどんどんヒョロヒョロになってムキムキが出てこなくなったんです。僕は筋肉至上主義者だったから、その風潮にちょっとずつ違和感を感じ始めてたんですよ。

 そしたら小学6年の時、たまたま銭湯で読んだ『少年チャンピオン』に衝撃を受けました。『ジャンプ』や『少年サンデー』『少年マガジン』にはないアングラ感というか。ヤンキーマンガが4つも連載されてたり、少年マンガ雑誌としてのバランスがいろいろとおかしかった。中でも僕は『グラップラー刃牙』や『覚悟のススメ』が好きで。難しいセリフも多かったけど、わからないところをお母さんに聞きながら読んでましたね」

 ちなみに呂布カルマというステージネームは、三国志をモチーフにしたマンガ『蒼天航路』からとったという。なぜ彼はマンガ家ではなくラッパーになったのだろうか?

 「美大卒業後は、しばらくフリーターでした。でも結局一作も描き上げられなかった。というのも、僕は人間しか描きたくないんですよ。むしろストーリーを考えたり、背景や車を描くのが苦痛でした(笑)。マンガ家を目指していた時はその事実を心の奥にしまっておいたんだけど、やっぱりそんな状態で続けていくのは現実的に難しかった。歌詞を書くようになったのはその頃ですね。ちょうどクラブに頻繁に行くようになってて、素人でも参加できるオープンマイクのイベントと出会ったんです。そこからラップをするようになりました。すぐにプロデューサーと知り合って、毎週末レコーディングするようになると、マンガを描く時間は減っていきました。でも正直こんなに長くラッパーをやるとは思ってなかったですね」

誰でもわかるから出血や骨折の話をリリックに入れる

 呂布カルマが最初に紹介してくれたのは、新井英樹の『ザ・ワールド・イズ・マイン』だ。1997年から2001年にかけて「ヤングサンデー」で連載されていた。理由なく暴力を振るうモンちゃんと、そのカリスマ性に魅了されたトシ。2人は北海道を目指して、血まみれの旅路をあゆむ。連載当時、徹底的にリアルな暴力描写が話題になった。

 「『ザ・ワールド・イズ・マイン』とは、まさにフリーターだった時に出会いました。このマンガは速攻で絶版になってるんです。今日持ってきたのは後に加筆され復刻した『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン』のほう。古本屋で旧作の1巻を立ち読みして衝撃を受けました。でも当時は普通の書店はもちろん、古本屋にも全然売ってなくて、全14巻をいろいろ駆けずり回って探したのを覚えています。だからいわゆる大人買いして一気に読んだ作品より自分に深く刷り込まれてる。

 この頃の自分は今よりも刺々しい人間だったので、『ザ・ワールド・イズ・マイン』はものすごくフィットしました。音源化されてない初期の曲ですけど、『ワールド・イズ・マインのモンちゃんのように』というリリックを書いたくらい。主人公のモンちゃんはいわゆる本当の反社(会的人物)なんですよ。とにかく暴力的で、すぐに人を殺す。人間に備わっている暴力衝動を、抑えることなくそのまま生きている。だから『お腹すいた』みたいな感じで殺す。ある意味、純粋な存在なんです。

 一方、相方のトシは普通の人。ただの凡人だけどモンちゃんに感化されて、凶暴化していく。その変化の過程がすごくリアルでした。トシはモンちゃんに憧れてどんどん殺人を犯していくけど、やればやるほど2人の違いは明確になる。新井英樹はどの作品でもブチ抜けた天才とそれに感化される凡人との対比を残酷に描いていると思う。

 彼の画は決して綺麗じゃない。関節が変なほうに曲がったりしてて癖がある。けど、躍動感がものすごい。『RIN』や『SUGAR』なんかも、キャラがめちゃくちゃ動いてるんです。そこにも驚きました。あと表現に容赦がない。そこまで描くかってくらい残酷なシーンもある。そういうことも含めて、とにかく好きな作家ですね。

 タブーがないという意味では、自分のリリックもそうです。いやらしいことや残酷なことも歌う。自分の生い立ちややんちゃしてた頃の話を歌うラッパーが多いけど、そんな話を実感できる人はごく一部だと思う。けど、痛みなら誰でもわかる。だから僕は出血や骨折の話をリリックによく入れるんです」

映画のようなコマ割りに感動した「東京プー」

 一方で、呂布カルマは昨年ネットで自作マンガを公開した(https://ima.goo.ne.jp/column/writer/83.html)。本人曰く「『マンガを挫折した』というのは嫌だったから、思いを成仏させるために描きました(笑)」とのこと。全10話の1ページマンガで、自分の日常をコミカルな視点から描いている。ラッパー・呂布カルマの一般的なイメージからすると意外な内容だが、正直、すごく面白い。

 そんな彼の感性を刺激したのが、2冊目に紹介してくれた『東京プー』だった。『ディアスポリス 異邦警察』で知られるすぎむらしんいちが、1993〜94年に「ヤングマガジン」で連載していたグッドセンスなコメディだ。

 「すぎむらしんいちも大好きな作家です。『超・学校法人スタア學園』をきっかけにハマって過去作も読むようになりました。この『東京プー』の前に描かれた『ホテルカルフォリニア』も大好きです。

 すぎむらしんいちは単純に画が好きというのもあるんですが、この人のマンガは映画っぽいんですよ。コマ割りが独特で。空気の描き方というか。普通に考えたら必要なさそうなコマがある。でもそれがあることによって、映画を見てるような独特の感覚が味わえる。

 ストーリーも変で。蒸発した彼女を追って上京した主人公が、板橋の商店街で酒屋の車に突然ひき逃げされてしまうんです。でも、商店街では近々大きなイベントを開催する予定だったので、ひき逃げはまずい。ちょうど主人公が記憶喪失になったので、商店街ぐるみで事件自体を隠蔽するって話なんです(笑)。

 これを読んだ当時、僕はテレビで見た東京しか知らなかったんですよ。でもここで描かれてる東京は、どっちかというと自分たちが暮らしてる田舎の景色に近かった。主人公は商店街のいろんなところでいろんな人と出会って、いろんな事件に巻き込まれる。基本的にはコメディですけど、人情話、バイオレンス、エロ、サブカルといろんな要素が入ってる。すごくオシャレなマンガだと思いましたね。全5巻という長さもちょうどいい」

トラックの運転手時代にAMラジオで知ったつかこうへい

 続けて「1冊くらい小説があったほうがカッコいいかなと思って」と、つかこうへいが書いた戯曲『蒲田行進曲』の小説版を最後に紹介してくれた。深作欣二により映画化もされている。妊娠を示唆するジェスチャー「コレがコレなもんで」はここが元ネタ。昭和の粋な世界観が詰め込まれた名作だ。

 「昔、トラック運転手をしてた時期があって、仕事中につかこうへいの特集をAMラジオで聞いたのがきっかけです。小説が先か、映画が先か忘れちゃいましたけど、すぐに『蒲田行進曲』をチェックしました。邦画だったらこれが一番好きですね。

 この作品はキャクターがしっかり作り込まれていて、みんながそれぞれの役割を完璧にこなしているところが魅力的なんです。銀ちゃんは典型的な昭和の映画スター。ちょっと落ち目なのにめちゃくちゃ。けど、憎めない。一方、ヤスは舎弟のステレオタイプ。いろんな意味で徹底的に子分キャラなんですよ。ヒロインの小夏も完璧に尽くす女っていう。こっちの予想を少しも裏切ってこない感じが逆にいい。

 たぶん、現代で同じような物語を作ってもこうはならないと思うんですよ。キャラに一捻りしてしまうというか。この時代だから成立したんでしょうね」

 呂布カルマはさまざまな面を持ったラッパーだった。強烈な暴力や残酷さに魅了される反面、優しい眼差しや、ユーモアも持っている。まさに『グラップラー刃牙』『浦安鉄筋家族』『覚悟のススメ』が同居した、90年代の「少年チャンピオン」のようなバランス。それこそが、彼の魅力なのだと改めて痛感させられた。