「読者に喜んでもらえるだろうという手応えを感じながら書いた」と言う。
舞台は北方領土の離島。日中ロの合弁会社で働く日本人が殺される。両目がえぐり取られていた。警視庁の潜入捜査官・石上が送り込まれるが、そこには謎に包まれた女性医師やナイトクラブのボス、情報員らしい中国人らが待っていた。90年前の猟奇的な殺人事件との関連も浮上し、事態は混迷の度を深めていく……。
約650ページの大作だが、最後まで緊張感に満ちている。「主人公をいじめ抜いた」という筆致とともに、犯人を決めないで書き進めたために作者ですらどんな結末になるか分からなかったことが、読者のドキドキ感を高めたのかもしれない。
「ハードボイルドとは、他を恃(たの)まないこと。うまくいかなくても我慢してベストを尽くす。男であれ女であれ、そんなかっこいい主人公を描きたい」と常々思っている。石上もそんな一人だが、強いばかりでもない。弱音を口にするヘタレだし、だまされると分かっていてフラフラと女性を訪ねてしまう。「昔なら、こういうヒーローは描かなかった。でも今回は、弱さも含めて共感するという時代の空気みたいなものを主人公にまとわせたかった」
作家として時代の空気を感じたいからか、夜の街で人を見るのが好きだ。「夜の世界の6割はうそで、3割はお金。でも残り1割に宝石のようなものが隠れている。それを見つけたときは、やったねと思う。そこに至るまでに、どれだけ時間と金を使っているんだよという話なんだけど」とニヤリ。
1979年に『感傷の街角』でデビュー。新宿鮫シリーズなどヒット作多数だが、危機感もあった。「今度こそだめなんじゃないか、評価されないのではという思いは年々深くなっている」。一方で、「こんな作品は俺しか書いていないよな。だったら居場所を見つけられる」と自分を鼓舞し続けてきた。
作家でいることはすごく幸せなことだという。「私にとって、世の中で一番かっこいい仕事。生まれ変わっても作家になりたい」(文・西秀治 写真・門間新弥)=朝日新聞2018年9月29日掲載
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