「独身者たち」書評 消費や廃棄に属さない別の生産性
評者: 椹木野衣
/ 朝⽇新聞掲載:2018年10月13日
独身者たち
著者:林道郎
出版社:平凡社
ジャンル:芸術・アート
ISBN: 9784582231298
発売⽇: 2018/08/10
サイズ: 22cm/247p
独身者たち [著]ロザリンド・E.クラウス
自民党の杉田水脈議員のLGBTを巡る主張「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がない」が物議を醸している。だが、生産する者は消費し、廃棄する者でもある。この循環を通じて、私たちは今ある社会の「再生産」に組み込まれ、動けなくなる。
本書は美術評論集だが、個々の作品の驚くほど詳細な分析を通じて、こうしたシステムの支配に一石を投じる力を持つ。対象がシンディ・シャーマンをはじめとする9人の女性作家に絞られているのも、彼女たちの作品を制作=生産の「神話」に縛り付ける解釈を解体するためで、女性性を賞賛するためではない。
タイトルは、単に既婚でないことを意味しない。ダダの芸術家マルセル・デュシャンが提示したこの概念を拡張することで、著者は独身者には社会的な消費や廃棄に属さない別の生産性があることを示唆する。それは「非生産的、非合理的、非効率的」を排除しない「無償の生産」を可能にする。