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村上春樹原作「ハナレイ・ベイ」出演の村上虹郎さん 「1800円でトラウマを買ってください」

文:永井美帆、写真:有村蓮

時間の止まった主人公を再び動かす鍵に

 映画冒頭、サチ(吉田羊)の自宅の電話が鳴る。息子のタカシ(佐野玲於)がハナレイ・ベイでサーフィン中、大きなサメに襲われて亡くなったという知らせだった。その日から10年間、命日になるとサチはハナレイ・ベイを訪れ、海辺近くに腰掛けて過ごす。そうすることで、亡くなった息子と、自分自身の人生と向き合っているのだった。

 友人とハナレイ・ベイに来ていた若い日本人サーファー・高橋を演じた村上さんは、「サチの止まってしまった時間を動かす鍵となる役」と話す。無邪気にサーフィンを楽しむ彼らに、サチは19歳で亡くなった息子の姿を重ねた。

 原作は、2005年に出版された村上春樹の短編集「東京奇譚(きたん)集」に収録されている。刊行当時から、市川準監督によって映画化の話が進められていたが、08年、夢半ばで市川監督が急逝。その思いは、松永大司監督に引き継がれた。

 以前から松永監督と親交があった村上虹郎さんは、「完全に松永監督を信頼して」二つ返事で出演を決めた。松永監督も高橋のキャラクター設定を変更し、「サーフィン初心者」「英語が話せる」など、演じる村上さん自身に寄り添わせた。

 「原作では高橋って名前すらなく、最後まで『ずんぐり』って呼ばれているんですよね。高橋は何も考えていないように見えて、英語も出来るし、実は将来に向けて努力している賢いやつ。僕の場合、カナダの高校に留学してはいたけど、英語の勉強をサボっていた時期もありますね。もちろん話せないわけではないんだけど。監督は僕と高橋の設定を合わせてくれたけど、似ているようで実は結構違うのかもしれない。でも、それを近づけていく微調整みたいなものが面白かったですね」

恐竜が出てくるんじゃないか」という自然の中で撮影

 白い砂浜と青い海の境界線、一面に広がる緑の木陰、心優しい現地の人の笑顔。スクリーンに映し出される美しい光景は、オアフ島とカウアイ島で撮影された。手つかずの自然が残り、「自然の博物館」とも称されるカウアイでのロケは困難も多かったが、村上さんの心に深く刻まれた。

 「海の見えるシーンは全てハナレイ・ベイで撮影しました。見たことない色の鳥がその辺を歩いているし、植物が生き生きしていて。近くには滝も火山もあって、どこからか恐竜が出てくるんじゃないかっていうくらいの自然。いつかまた行きたいです」

 ハワイには2歳ごろ、両親(俳優の村上淳さんと歌手のUAさん)と3カ月ほど滞在したことがあるが、本人いわく「全然覚えていない(笑)」。小学生の時に両親が離婚し、母親と暮らしていた村上さんは、カナダ・モントリオールの高校に進学する。「当時、日本に行きたいと思う高校がなかったんです。直観で外に出たいと思って、自分で決めました」。その留学中、父親とのスカイプで言われた一言がきっかけで、俳優を志した。

©2018 『ハナレイ・ベイ』製作委員会

映画は「見るべき人が見てくれればいい」

 「高1の時ですね。おやじから『河瀬直美監督が映画を撮りたいって言っている』って。『まずは学業をやれ』と言う母親とめちゃくちゃケンカして、時間がかかったけど出ることにしました。それまで俳優という仕事に興味はなかったです。でも、撮影が終わって、カナダに戻ってからも頭がフワーッとして、勉強が手につかなくなって。あまりの衝撃だったんですよね。その時、俳優を仕事にしようと決断しました。母親には『面白いに決まってるじゃん。最初からそうなること分かってたよ』って言われましたけどね」

 俳優の仕事は、「崇拝している」と話す漫画家・井上雄彦の作品にも通じると言う。「例えば『バガボンド』って、人間の内面的な部分を描いている。外面ではなく、本質的な部分を鍛えることは、俳優にとっても重要だと思います。『バガボンド』は、外からの情報を複雑化して、自分という人間を構築していくことを教えてくれた。僕の場合、父親と義理の父親、2人のおやじがいて、母親の影響も強くて、色んな人格が混在しているって言えるかもしれないです。バランスがいいのか、いびつなのかは分からないけど……」

 そうした背景からあふれ出る抜群の感性で、出演依頼は後を絶たない。しかし、「別に見てくれなくてもいい」と言う。

 「少し語弊があるかもしれないけど、見るべき人が見てくれればいい。強制して、苦痛を与えるのが僕たちの仕事ではないから。でも時には、トラウマになるような映画も面白いと思うし、トラウマになって欲しいという気持ちもある。だから、1800円でトラウマを買ってみて下さい!」

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