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たなか亜希夫「リバーエンド・カフェ」 被災地のマスターと個性的な客たち

『リバーエンド・カフェ』(1)(2) [著]たなか亜希夫

 田舎町の川の中瀬に突然ポツンと1軒できたカフェ。粗野でうさんくさい雰囲気のマスターと、なりゆきで店を手伝うことになった主人公の女子高生を中心に、店に出入りする客たちの人間模様が、ちょっとコミカルで、しかしほろ苦いタッチで描かれる。
 登場するのは、怪しい占師、ヒモとの関係に悩む女、ドサ回りの演歌歌手、古いピンク映画に血道をあげる男たちなど、個性的で俗っぽい面々だが、みんなが何らかの形で「被災」の影響を受けている。主人公が学校で日常的にいじめを受けている原因も「被災」と無縁ではない。
 この物語の舞台は3・11後の石巻。被災地では今、一丸となって復興に努めている――というような、きれいごとの言葉で現実は済むわけもなく、人間が暮らす社会であるからには、清も濁もあわせのまされるような現実が渦巻いている。わかりやすくて美しい言葉では決してくくられることのない、人間くさい姿を徹底して描いた先で、ようやくドラマは震災が人々の心の奥底に残した傷痕へとにじり寄っていく。
 被災地を舞台に作品を描く覚悟のようなものが伝わってくる、慎(つつ)ましくも力強い作品だ。=朝日新聞2018年11月3日掲載