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ドン・ウィンズロウ最新刊「ダ・フォース」を試し読み特別連載2(毎日更新)

 

>「ダ・フォース」試し読み第1回から読む

ありえない男 ♯2

デニー・マローンがFBIに捕まった? 内務監査部でもなければ州の検察局でもなく、FBIに? 相手がFBIでは市(まち)の人間は誰も彼に手出しはできない。

そのため誰もが息をひそめていた。途方もない不安を募らせていた。マローンの一撃を待っていた。なぜなら、デニー・マローンが知っている情報をもってすれば、署長も局長も市警本部長でさえ差し出すことができるからだ。検察官や判事を巻き添えにすることもできるだろう。いや、市長さえ、伝説に出てきそうな銀の皿にのせ、少なくとも下院議員ひとりと、不動産業界の億万長者を数人、前菜として食卓に供することもできるだろう。

だから今はこんなことが囁かれている――マローンは司令部にいるようなもので、台風の目の中にいる者はみな恐れ、とことん恐れ、静けさの中にいながらすでに避難所を探しはじめた、と。それはみんなわかっているからだ。マローンの頭の中にあるものから身を守れるほど高い壁や深い穴などどこにもない。ニューヨーク市警本部(ワン・ポリス・プラザ)にも、刑事裁判所にも、ニューヨーク市長官邸にも、五番街とセントラル・パーク・サウスに建ち並ぶペントハウス御殿にも。

実際、その気になれば、マローンには市(まち)全体を崩壊させることもできるだろう。

つまるところ、マローンと彼の部下からは誰も安全ではいられないということだ。

新聞の見出しもテレビのヘッドラインも、これまでその多くがマローンたちによってつくられてきた――〈デイリー・ニューズ〉に〈ニューヨーク・ポスト〉、チャンネル7にチャンネル4にチャンネル2。そんな彼らは“午後十一時のお巡り”などと呼ばれた。街で顔の知れたお巡り、市長が名前で知っているお巡り、マディソン・スクウェア・ガーデンにも、メドウランズ・スポーツセンターにも、ヤンキー・スタジアムにも、シェイ・スタジアムにも予約席があり、市(まち)のどんなレストランでもどんなバーでもどんなクラブでも、王族のような待遇を受けるお巡りなのだ。

そんな超一流集団のまぎれもないリーダーがデニー・マローンだった。

市(まち)のどんな家にはいろうと、彼は制服組からも新米刑事からも注目された。警部補は彼に会釈し、警部ですら努めて彼の邪魔にならないようにした。

彼はそれほどまでの敬意を集めていた。

彼の挙げた業績の中でも(彼が阻止した窃盗、彼が受けた銃弾、彼が救った人質の子供、彼がおこなった逮捕、彼が指揮したガサ入れ、彼がもたらした有罪判決を挙げたらきりがない)やはり一番はニューヨーク市警史上最大の麻薬組織の手入れだろう。

ヘロインが五十キロ。

その手入れでは麻薬取引きの親玉のドミニカ人が死んだ。

そして、ヒーローの刑事もひとり。

マローンと仲間はそのひとりを埋葬すると――バグパイプが奏でられ、旗がたたまれ、バッジには黒いリボンが掛けられた――すぐにまた仕事に戻った。街にはヤクの売人がいて、チンピラ集団がいて、泥棒がいて、レイプ魔がいて、マフィアがいるからだ。同僚の死を悼んでいる暇は彼らにはなかった。街を安全なところにしておきたければ、街にいなければならない――昼も夜も平日も休日も。どんな犠牲を払おうと。彼らの妻たちは自分たちがどんな契約書にサインをしたのかよくわかっていた。子供たちは子供たちで自分の父親がどういうことをしているのかすぐに学ぶようになる。そう、彼らの父親は悪党を監獄にぶち込んでいるのだ。

ところが、今はマローンがその監獄にいる。彼がこれまでぶち込んできたクソどもみたいに、監獄の金属製のベンチに坐り、うなだれ、両手で頭を抱え込んでいる。仲間たち――ダ・フォースの兄弟たち――の身を案じている。ほかでもない彼に首を差し出されてしまった彼らは今後どうなるのか。

家族のことも心配だった。彼の妻にしてもこんなことの契約書にまでサインをした覚えはなかった。彼の子供たち――息子と娘――も今はまだ幼くて理解できなくても、いずれ大きくなると、彼を決して赦さなくなるだろう。自分たちはどうして父親なしに大人にならなければならなかったのか。

さらにクローデットもいる。

彼女は彼女で人生を台無しにした。

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