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「フューチャー・ウォー 米軍は戦争に勝てるのか?」書評 先端技術駆使した未来に警鐘

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2018年11月17日
フューチャー・ウォー 米軍は戦争に勝てるのか? 著者:ロバート・H.ラティフ 出版社:新潮社 ジャンル:外交・国際関係

ISBN: 9784105070519
発売⽇: 2018/09/27
サイズ: 20cm/249p

フューチャー・ウォー 米軍は戦争に勝てるのか? [著]ロバート・H・ラティフ

 科学技術の取材現場にいると、その軍事利用が気にかかる。以前、情報工学の研究者にこんなことを言われた。「米国の学会で発表してロビーで質問に答えていたら、いつのまにか軍人ばかりだったよ」
 この本の筆者は、質問した側の人間だ。新技術を駆使した近未来の戦争がどうなるか。兵器開発の最前線にいた元米軍将校が描く。
 「ドローン群は、それらの対空砲が住宅地に囲まれている事実を無視して、地上のあらゆる脅威の排除に着手した」。人間の指示なくとも攻撃するドローン、コンピューターウイルスの攻撃で制御不能となる大型発電所、活力増進剤を服用する兵士??。
 国防総省は米国の技術が他国を圧倒した時代を「オフセット」と呼び、核兵器、ステルス技術などに続く、第3オフセット戦略がいま語られている。今後、人工知能(AI)と合成生物学を兵器は取り込むが、最新技術の理解も不十分で、波及効果の予想は困難、制御可能かもよくわかっていない、と懸念する。
 今年、平昌五輪の開会式でドローンの大群がスノーボーダーや五輪マークを空中で形作った。そんな華やかな技術に、胸がざわつくようになるかも知れない。
 注目したいのは、技術にとどまらない筆者の論考。兵士の心理に与える負担、社会と軍、戦争と政治にも切り込む。技術の軍事利用に歯止めがきかない構造、脅威をネタに軍事や情報能力の向上が急務と吹聴する政治家への目も厳しい。
 全員が志願兵の軍隊は、なり手が統計学的に狭い範囲にとどまり、軍隊の見方が社会全体を反映しない恐れがある。軍への支持はあっても、軍と社会の距離が広がっている。戦争と技術への無理解、倫理問題への社会の無関心。「関心も知識もないものに〝支持〟を表明するというこの性向は、言語道断であるだけでなく、危険でもある」。先端技術を知る元軍人の語る危うさに耳を傾けたい。
    ◇
 Robert H.Latiff 元米空軍の少将。米政府機関のコンサルタントを務める。軍の倫理問題の書籍に関わる。