働きづめの父を亡くした女子高生の碧(あお)は、まだ見ぬ叔父の春軌と暮らすことに。しかし、女装で現れた彼の第一声は「今日から私があなたのママよ♡」だった!? 本作は、そんな2人の共同生活をテンポよく描いたコメディだ。
同じ食卓について食べる朝食、手作りのお弁当――。
父を気遣い自分の気持ちを抑えこんできた碧にとって、その時間がどれだけ沁(し)みるものなのかが描かれてゆく。突如、目の前に開かれた免疫のない世界。それでも人の優しさを素直に受け止め、思うことを口にしようと一歩を踏み出す碧が眩(まぶ)しい。
騒々しくも温かく寄り添う周囲の人々も個性的。春軌がママを務めるバーの面々に同級生の男前な双子ガール。自分の“好き”をまっすぐに表現できる彼らの存在は、碧にとって新たな道しるべだ。
しかし、なんといっても大きいのは春軌の存在。「個」を重んじる父性と「場」を大切にする母性がぶつかると、さまざまな局面で混乱を招きがちだが、どちらも併せ持った春軌がいるだけで場に安心感が生まれるのだ。「男らしさ」と「女らしさ」。そこから生じる細かな前提など蹴散らし、艶(あで)やかに笑う春軌が混迷の時代を明るく照らす。=朝日新聞2018年11月17日掲載
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