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プロの夢を断たれた男が再び将棋の道へ! 鍋倉夫「リボーンの棋士」(第96回)

 今年、松田龍平主演で映画が公開された『泣き虫しょったんの奇跡』の主人公・瀬川晶司は実在するプロ棋士だ。彼は「26歳までに四段」という年齢制限によって奨励会を退会させられ、いったんプロ棋士への道を断たれた。しかしアマチュアとして活躍を重ね、2005年に「プロ編入試験」を受けて見事プロに。それから10年以上経つが、年齢制限で奨励会を追い出された後、プロ編入試験に合格してプロになった棋士は瀬川晶司と2015年の今泉健司、この2人しかいない。

 年齢制限は過酷なルールだ。奨励会員は全国から集まった将棋の天才少年ばかりだが、三段から四段に上がれる者は年間4人だけ。実に8割は四段になれないまま26歳を迎え、強制的にプロへの道を閉ざされてしまうという。一流大学に入れる優秀な頭脳を持ちながら、ほとんどの棋士は大学になど行っていない。学歴も職歴も何ひとつ持たず、26歳から新たに人生をやり直さなければいけないわけだ。

 ちなみに26歳という年齢制限は1982年からできたもので、それ以前は31歳だった。5歳早くなったのはひどい気もするが、第二の人生を始めるなら20代のうちに、という良心的判断なのだろう。1993年に始まった将棋マンガ『月下の棋士』(能條純一)で主人公・将介に初黒星をつけた鈴本は、31歳で年齢制限を迎えて奨励会を去る。これは鈴本が82年以前から奨励会に在籍していたため。当時はプロ編入試験という制度もなく、奨励会を追い出された者は一生プロ棋士になれない運命だった。

 『月下の棋士』と同じ「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で今年から始まった『リボーンの棋士』(鍋倉夫)は、鈴本や瀬川と同じく年齢制限で奨励会を退会した棋士・安住の再生(リボーン)の物語だ。『リボンの騎士』(手塚治虫)にもかけてあり、なかなか気の利いたタイトルになっている。

 退会から3年。アラサーになった安住は将棋を忘れて前向きに生きようとしていたが、どうしても将棋を捨てることができず、アマチュア棋士としてトップを目指すことを決意する。一方、アマ名人の片桐は親に奨励会入りを反対されて東大に進学した人物で、ひそかにプロ編入試験を狙っている。彼から見れば、奨励会に入れた者はそれだけで恵まれているのだ。安住をはじめ、多くの棋士が挫折を経験し、リベンジを目指しているのがいい。

 なお、現時点での安住はあくまでアマチュア棋士としての活躍を目指しており、片桐のようにプロ入りを夢見ているわけではない。最終的にはプロ棋士になるのだと思うが、ひたすらアマチュア棋士の世界を描いていくのも斬新で面白い気もする。