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BLラバーの書店員がセレクト!実りの秋、食欲を刺激するBL作品3選

“ご飯×ヤクザ”のハードボイルドBL(井上將利)

 「“BLご飯”って?」と思った皆さん! 安心して下さい、僕もです(笑)。いくら食欲の秋だからってBLでそんなテーマなんて……と、お題をいただいた時には正直焦りました。でも、いざ見回してみると様々な切り口で“食”に焦点を当てている作品が、あれもこれもと見つかってびっくり! そんな嬉しい気付きに感謝をしつつ今回ご紹介するのは、ナリさんの『ヤングコーンの王子様』(ふゅーじょんぷろだくと)という作品です。

 生活のため幼い頃からの自炊生活で料理が得意になった雅七(みやな)は日々、学校とバイトに明け暮れる貧乏大学生。ある日見つけた怪しい求人に釣られ料理教室の講師になったけれど、職場は何とヤクザのお屋敷で……。若頭の彪継(あやつぐ)に気に入られたものの、それが理由で裏社会は大騒ぎ⁈ ポップな表紙とのギャップがやばい、パワフルで賑やかな人情物語の始まり始まり!

『ヤングコーンの王子様』©ナリ/FUSION PRODUCT
『ヤングコーンの王子様』©ナリ/FUSION PRODUCT

 組員達から慕われる若頭の彪継はモデルみたいなただの超美形かと思いきや、筋の通った男気溢れる一面もあったりと、まさに頼れる兄貴。一方、料理を教える雅七も何だかんだ組員達と意気投合。彪継のために皆で、かき揚げ丼やグラタンなどの料理に挑戦する光景に「この人たちヤクザだよね??」と思わずほのぼのしてしまいます(笑)

 そして料理をきっかけに彪継と雅七、全く違う世界で生きてきた二人の距離は次第に近づいていき……。二人の穏やかな時間とその陰に映るお互いの過去、物語は怒涛の展開へと突き進んでいきます。

 ヤクザ物の醍醐味である「男臭さ」や「華やかさ」に「ご飯」という絶妙なスパイスが効いたフルコースがこれでもかと堪能できる、そんな物語だと感じられる本作。
 “ご飯×ヤクザ”の笑って泣けるハードボイルドBL、是非ご賞味ください!

一緒にカレーやエビチリを作る二人ににっこり(キヅイタラ・フダンシー)

 秋も深まってご飯のおいしい季節がやってきましたね!

 今月の「BLことはじめ」のテーマは“BLご飯”ということで、色々と迷った中からヤマシタトモコさん『スニップ,スネイル&ドッグテイル』(祥伝社)を紹介します。

 僕は割と表紙買いすることが多く、この作品を読むきっかけになったのも表紙イラストのインパクト! パッと目に飛び込んでくる感じに惹かれました。

 ご飯にすごくフォーカスしている作品ではないのですが、主人公の峰と安城の食事を含めた暮らしが描かれていて、二人が積み重ねる日常を感じてニヤニヤできる、今の季節にオススメしたいタイトルです。

 この作品の面白いところは他にも。峰と安城が出会ってから恋人になるまでの約8ヶ月が、一般的なストーリーとは違って、ダイアリーのような形式で展開されます。二人の出会いの場面からストーリーが始まるわけではなく、読者は既に恋人関係になっている二人の過去を、日付を前後しながら断片的に知っていくことになります。

 大きな事件とかがあるわけではないんですが、対照的だった二人が偶然出会い、いつの間にか友達以上の気持ちを抱いて、同じ時を過ごして……と二人の8ヶ月間を何回か行ったり来たりしながら知っていく感覚が、なかなか他の作品では味わえない楽しさだと思います!

 ちなみに巻末に「もくじ」があってすべてのエピソードを時系列順で紹介してくれているので、目次を参考に読みなおすと、あ~このときにこうなったのね、とさらにお話に深入りできますよ♪

 さて、ようやく今回の本題、“BLご飯”です(笑)。最後に収録されている「the recipe」で紹介される、オレガノを使ったレシピが4種類。安城が料理好きで、特にオレガノがお気に入りのハーブのようなのですが、シンプルでどれも美味しそうなんです(笑)

©ヤマシタトモコ/祥伝社 on BLUE comics
©ヤマシタトモコ/祥伝社 on BLUE comics

 他にも作中ではカレーやらエビチリやらを作るシーンが登場して、ああだこうだ言いながら一緒に食事を作る二人をにっこり眺めることができますよ! そして、たまにはキッチンに立とうかと思うのでした。

BLでも胃袋を掴んだ者が強し!(貴腐人)

 今回の「BLご飯」というテーマをいただいた時、すぐに頭に浮かんだのが川唯東子さんの『Marble』(リブレ)

 街のビストロを舞台に、パーフェクトなソムリエの梶とワガママ暴君だけど腕は超一級品のシェフ近森の恋と仕事がメインのお話です。梶はなんでもこなす超有能な男ゆえ、周りは梶に頼りがちで、風邪で休んだだけで途端に店が回らなくなるほど。特に近森は梶に恋心を抱いていて、梶がいないとFAXも送れないポンコツぶり。

 梶の無自覚さに耐えられなくなった近森は勢いで告白するものの、その思いを知った梶は、期間限定で近森の師匠・小鹿からの引き抜きを受けます。

 離れる事で状況が改善するどころか更に近森のポンコツぶりは悪化。このままでは店を潰しかねないと、近森は自分が辞めるから梶に店に戻ってきてほしいと申し出ます。

 戻るなら一緒に続けていきたいと思う梶は、近森の思いを受け入れ付き合うことに。フツーならロマンティックな場面ですが、「お試しで付き合う」なんて言っちゃうから近森激怒。近森をなだめつつ、ゆっくり愛を育むのかと思いきや即ラブシーンへなだれこみました……。

©Toko Kawai/libre 2018
©Toko Kawai/libre 2018

 なんだかんだいっても近森に胃袋を掴まれている梶。いざコトが始まれば惚れているはずの近森が引き気味になるほどの積極性。びっくりだわ。

 「お試し」なんて言っていたのにラブラブ。相思相愛。比翼の鳥、連理の枝。

 ラストはオーナーから店を譲り受け、リスタートする二人です。

 ブフ・ブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮)や窒息鳩など、読み終わった後、近森の料理が食べたくなるお話です。