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リチャード・ドーキンス「魂に息づく科学」書評 宗教やテロも「自分で考える」

評者: 長谷川眞理子 / 朝⽇新聞掲載:2018年12月15日
魂に息づく科学 ドーキンスの反ポピュリズム宣言 著者:リチャード・ドーキンス 出版社:早川書房 ジャンル:自然科学・科学史

ISBN: 9784152098078
発売⽇: 2018/10/18
サイズ: 20cm/524p

魂に息づく科学 ドーキンスの反ポピュリズム宣言 [著]リチャード・ドーキンス

 リチャード・ドーキンスと言えば、『利己的な遺伝子』という書物を著したことで有名だ。それは、進化とは何かについての、非常に明快な一般書であった。あれから40年以上が経ったが、ドーキンスはさらに多くの著書を出版し、新聞や雑誌に投稿し、テレビに出演し、学会や集会で講演し続けている。
 1995年、彼はオックスフォード大学の「科学的精神普及のための寄付講座」の教授に就任し、進化学のみならず、科学のために精力的な活動を続けてきた。本書は、それらの投稿記事や講演のうち、おもに2000年代に出されたもの41を収録している。
 その一部は、進化に関して蔓延している数々の誤解を解くものだ。そのほかは、宗教やテロや法廷での陪審員の判断など、いろいろな社会的問題についての考察である。どれも、彼の論理展開はきわめて明快、レトリックは秀逸で、主張は並々ならぬ情熱に支えられている。
 彼は徹頭徹尾の科学者であり、正しい合理的論証と事実による検証を基礎におく。しかし、論理やデータが価値観を生むわけではない。彼の価値観・信念は、自由と公正を重んじ、あらゆる通念をそのまま受け入れることはせず、自分で考えることだ。この「自分で考える」考え方が、論理と実証に基づき、わからないことはわからないと言い、わけのわからないものは受け入れず、何が示されれば自分の考えを変えるかの根拠がはっきりしている科学的方法なのである。この思考を宗教にあてはめると、宗教は妄想を生み、人々を狭隘な考えに縛り付けるものだということになる。宗教に対する彼の攻撃は鋭く、小気味よく、妥協を許さない。反対する人は怒るだろうが……。
 寄付講座の教授職は08年に退いたが、ドーキンスは、科学的思考の厳密さ、美しさ、深遠さを世に伝える第一人者であり続けるに違いない。
    ◇
 Richard Dawkins 1941年生まれ。進化生物学者。英国の王立協会フェロー。『神は妄想である』など。