せっかく出版されても、長く売り続けられる本は少ない。たいていの本はあっという間に姿を消す。だが、まれに復刊する本もある。昔は出版社員が書店員から「お客さんの問い合わせが多い」という話を聞きつけ、復刊につながることが多かった。そのほか、古本屋で高く売られているのを見つけたり、ときには読者から復刊リクエストのはがきが届いたり。
SNSが登場して、復刊に至るプロセスも変わった。『日英語表現辞典』もその一冊。もとは1980年に出た本で、2004年にちくま学芸文庫に入ったが、その後は長らく入手困難になっていた。ところが最近、ツイッターで復刊を望む声が高まって急ぎ実現。同文庫の公式アカウントには、読者からの喜びの声がたくさん寄せられている。SNSが良書にふたたび命を与えているのだ。いいね!
『日英語表現辞典』は日本語と英語の考え方の違いについて書かれた本である。前半は「英和の部」で後半は「和英の部」。ただし、どんな単語でも載っているわけではない。たとえば「英和の部」のJの項にはjinxとjustの2語だけ。jinxについて〈日本語では、不運にも好運にも両方に使っているが、英語では、bad luckをおびきよせるというblack magicから来る迷信で、運の悪いことだけに使う〉と説明。justについては、〈その国の人間の心理や習慣を知っていないと、見当違いの解釈をしてしまうことがある〉と述べ、やってしまいがちな誤訳の例などが出てくる。辞書というよりも、文化の違いをネタにしたコラム集のようで、「引く」より「読む」のが楽しい。
編著者の最所フミは1908年に生まれ1990年に亡くなった。この文庫の解説を書いている詩人の加島祥造(1923~2015)の元恋人で、のちに詩人・評論家の鮎川信夫(1920~86)と結婚した。すぐれた英語力の持ち主であるだけでなく、戦後の若い詩人たちに影響を与えた。
永江朗(ライター)
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ちくま学芸文庫・1620円=7刷3万5千部、04年1月刊行。一時はネット古書店で1万円を超えたという。復刊後2万5千部。=朝日新聞2018年12月15日掲載
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