「あの小説をたべたい」は、好書好日編集部が小説に登場するごはんやおやつを料理し、食べることで、その物語のエッセンスを取り込み、小説の世界観を皆さんと共有する記録です。
今回挑戦するのは、年末年始のごちそうでお疲れ気味の胃にやさしい一皿。池波正太郎の人気シリーズ「剣客商売」第七巻収録の「大江戸ゆばり組」に登場する湯豆腐をお届けします。
泰平の江戸を舞台に、無外流の老剣客、秋山小兵衛(こへえ)が遭遇する様々な事件を描いた「剣客商売」シリーズ。
「悪戯心」を食べる
新しい旦那を迎えようという妾が手付金だけを受け取って一晩で手を切ろうとしているという話を聞いた小兵衛。その旦那がかつての友だと知り、旧友にお灸をすえてやろうと、あることを企みます。
小兵衛が御用聞きの弥七と共に念入りに打ち合わせをし、酒を一杯やろうという場面に登場する肴が湯豆腐です。さすが美食家としても知られる池波正太郎。ただの湯豆腐なんかじゃありません。
土鍋に金杓子で削ぎ入れた豆腐へ大根をきざんでかけまわしてあるのは、豆腐をやわらかく味よくするためで、煮出は焼干の鮎という、まことにぜいたくな湯豆腐だ。
焼干の鮎が見当たらなかったので、煮干しと昆布でしっかりと出汁を抽出。大根はみぞれ鍋をイメージして、大根おろしにしてみました。やさしい味の出汁が五臓六腑に染み渡ります。寒い日のお酒のお供におすすめです。