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「僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない」書評 研究進むと疑問が増える不思議

評者: 長谷川眞理子 / 朝⽇新聞掲載:2019年01月12日
僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない この世で一番おもしろい宇宙入門 著者:ジョージ・チャム 出版社:ダイヤモンド社 ジャンル:天文・宇宙科学

ISBN: 9784478069547
発売⽇: 2018/11/09
サイズ: 19cm/444p

僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない この世で一番おもしろい宇宙入門 [著]ジョージ・チャム、ダニエル・ホワイトソン

 一般的には、物理学というのは、生物学などに比べれば、比較的完成された学問だという印象が強いのではないだろうか?
 ニュートンの力学が人間周辺の世界の大筋を説明し、もっと遠いところも含めるとアインシュタインの相対性理論が説明し、極微の世界については量子力学が説明する。物理学は科学の王道、という印象。
 ところが、違うのだ。陽子と中性子と電子で原子ができ、原子が集まって分子ができ、分子が集まっていろいろなものができる。私たちが知っている物質だ。でも、実は、こんなものは宇宙全体の5%でしかない。残りの95%のうち、27%がダークマター、68%がダークエネルギーだ。では、ダークマター、ダークエネルギーとは何か? まったくわからない。
 現代の量子力学は、物質を作る究極の粒子として、クォークとかレプトンとかを発見した。これらにもいくつもの種類がある。でも、アップクォークとダウンクォークと電子さえあれば、私たちの知っている物質は作れる。だったら、ほかにもいくつもある粒子たちはなぜ存在するの? まったくわからない。
 ヒッグス粒子が見つかったとか、重力波が検出されたとか、ときどきニュースになる。これらを断片的に見ていると、物理学がどんどん進んでいるように見える。進んではいるのだが、実は、それと同時に疑問の数がますます増えていく。
 本書は大変おもしろいが、それは、現代物理学がよくわかるようになるという意味ではない。少し説明があったあとで、「でも、これがどうしてそうなのか、まったくわからない」という話になる。質量とは何か、反物質とは何か、なんにもわからない。わからないことをつなぎあわせることで、興味をそそる不思議な話になる。でも、これこそが科学なのだ。
 わかる入門書ではなく、わからないの入門書。逆手の発想が超おもしろい。
    ◇
Jorge Cham 米国の新聞雑誌の複数コマ漫画の描き手▽Daniel Whiteson カリフォルニア大教授(物理学)