『FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実』 [著]ボブ・ウッドワード
著名ジャーナリストが米政権の内幕を暴いた本書は評価が分かれそうだ。前国務長官が「あの男(トランプ)はものすごく知能が低い」と嘆くなど、驚くべき話が多数紹介されている点は一読に値する。
他方、序盤で描かれる2016年の大統領選を除けば基軸となる展開に欠け、中盤以降は主にホワイトハウス内の状況が淡々と綴られていく。その構成はほぼランダムで、たとえば「イランとの核合意」を政権関係者が議論する様子から「通商問題」「シリア内戦」へと争点がくるくる切り替わる。このため読んでいて若干注意が削がれる感がある。
肝心のトランプ大統領については、豪州首相とのやり取りが印象的だ。17年のG20サミットで大統領との首脳会談に臨んだ首相は、豪州産の特殊鋼は米鉄鋼関税の適用を除外されるとの言質をとる。その約8カ月後に再会談が開かれる直前、部下から首相との約束をリマインドされた大統領は「憶えていない」と言う。
ところが会談で首相から「憶えていますか?」と問い詰められた大統領は「憶えているような気がする」と答え、結局、豪州は鉄鋼関税を免れる。気まぐれな性格が表れているが、こうした巧みな人物描写はさすがだ。=朝日新聞2019年1月12日掲載