取材のためシリアに入国し、武装組織の人質となったフリージャーナリストの安田純平さんが解放されたのは3カ月前。『シリア拘束 安田純平の40か月』(扶桑社・864円)は、帰国後2度の本人会見の全文とインタビュー、本人によるキーワード解説などをまとめたブックレットである。
恥ずかしながら本書でやっと彼の身に起こった全体像が分かった。拘束は「私の凡ミス」と率直に謝罪し、延べ6時間を費やし、安田さんは懸命に言葉を紡いでいる。
妻宛ての暗号文で「身代金は払うな」と伝え、拘束が3年に及ぶと、自ら「殺せ」と訴えた。身動きが許されない状況で、組織の正体や監禁場所、なぜ拘束を続けるのかをわずかな情報から分析し、イスラムの教義を盾に解放要求するなどサスペンスばりの頭脳戦を仕掛けたことも。
浮かび上がるのは、誠実さと優れた状況把握能力を持つジャーナリストの姿だ。自己責任のバッシングによって、かすんでしまったその経験から、何かを学ぶべき時期が来ているのでは。(木村尚貴)=朝日新聞2019年1月12日掲載
編集部一押し!
-
著者に会いたい 『蔣介石 「中華の復興」を実現した男』家近亮子さんインタビュー 「敵か友か」問われ続けて 朝日新聞文化部
-
-
朝宮運河のホラーワールド渉猟 織守きょうやさん「あーあ。織守きょうや自業自得短編集」インタビュー 他人事ではない怖さに包まれる 朝宮運河
-
-
杉江松恋「日出る処のニューヒット」 宮島未奈「成瀬は都を駆け抜ける」 最強の短篇作家の技巧を味わう(第33回) 杉江松恋
-
インタビュー 彬子さまエッセイ集「飼い犬に腹を噛まれる」インタビュー 導かれるまま、ふわりふわり「文章自体が寄り道」 吉川明子
-
インタビュー 刺繍作家junoさん「ぱくぱく ぱんだちゃん」インタビュー 布の上に命を宿すような感覚で 加治佐志津
-
オーサー・ビジット 教室編 情報の海に潜む罠 感じて、立ち止まって、問いかけて 国際ジャーナリスト堤未果さん@徳島県立城東高校 中津海麻子
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】大迫力のアクション×国際謀略エンターテインメント! 砂川文次さん「ブレイクダウン」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り PR by 三省堂
-
イベント 戦後80年『スガモプリズン――占領下の「異空間」』 刊行記念トークイベント「誰が、どうやって、戦争の責任をとったのか?――スガモの跡地で考える」8/25開催 PR by 岩波書店
-
インタビュー 「無気力探偵」楠谷佑さん×若林踏さんミステリ小説対談 こだわりは「犯人を絞り込むロジック」 PR by マイナビ出版