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おばけのコックが作る料理はちょっと不気味だけど美味しそう 角野栄子さん「おばけのアッチ」カフェがオープン

文:根津香菜子、写真:斉藤順子

子どもに興味を持ってもらい「一人読み」につながる作品に

 まずは、角野さんによるブックワゴン「おばけのアッチのほんだな」の除幕式からスタート。ブックワゴンには、子供の目線に合わせ一番下の段には角野さんの著書が並び、その上の2段には、作中に出てくる料理の食品サンプルがディスプレイされています。この食品サンプルは、以前、幅さんが名古屋のブックイベントの際に作ったもの。「アッチに出てくる料理はどれも奇妙奇天烈だけど『美味しそう!』と思ったんです。その面白さを食品サンプルにして伝えたいと思いました。子どもに見てもらって、本に対する興味を開けたら」。これに対し「食玩で展示されていると、とても身近に感じますね。新しい興味のつなぎ方だなと思いました。フルーツポンチが遊園地みたいでかわいいですね。このブックワゴンは1年かけて全国を周るそうなので、私も楽しみです」と角野さんが話します。

 大人向けの本よりも息が長いと言われる児童書ですが、昔に比べると圧倒的に売れ行きも読者の数も少なくなっているそう。しかし近年、読み聞かせの大切さも周知されています。対談では、絵本の読み聞かせから、子どもが一人で本を読むことにつながる「幼年童話」の話題に。

 「今の時代、読み聞かせの次はスマホやユーチューブなど、絵本から児童文学にジャンプする子が少なくなってきています。『アッチ』シリーズは、カタカナにもルビが入っているし、『魔女の宅急便』などに比べて文字数が少ないので、子どもたちの初めての一人読みにぴったりですよね」と幅さん。角野さんは「字を覚えて、自分で最後まで一冊読めた記念日は誰でも持っているでしょう。私はいつも自分で書いた作品を必ず声に出して何回も読むんです。そうすると、心の弾み具合を感じます。アッチのシリーズは声に出して読むと楽しいように書いています」と言います。

「もう一度声に出して読んでほしい」

 「料理をしながら歌うアッチの面白い歌詞や、文中に出てくる擬音が心の中でリズムになって、頭の中で勝手にキャラクターが動き出すんですよ」と言う幅さんに、角野さんは「言葉のリズムはそれぞれ読んだ子が考えるし、音と言うのは風景にもなります。子どもの頃にアッチを読んで大人になった方にも、ぜひもう一度声に出して読んでほしいです」。

 子供は一番正直な読者。その子たちに面白いと思ってもらいたいと毎回真剣勝負だと角野さんは言います。「お母さんや先生が読んで聞かせる本は『聞き書』だと思っています。そこから『読書』につながる架け橋のような存在の作品になってほしいですね」

 また、昔は本を読んだ子供から、便箋2枚分の感想をもらうことは珍しくなく、物語の続きを書いてきてくれる子もいたのだとか。「自分が読んで楽しかったから、クリエーターに変わっていくんですね。最近は手紙の感想も『とても楽しかったです』というくらいで、読んだ後の気持ちが簡単になっているように感じます。あとは、絵をつけて送ってくる子が多いのも今の特徴です。心が映像的になっているんです」

 児童文学界のノーベル賞とも言われる国際アンデルセン賞・作家賞を2018年に受賞した角野さんは、今も作品を書き続け、毎年「小さなおばけ」シリーズを出版しています。「物語を書くと安心するんです。子供の頃に読んだ本って忘れることが多いけど、幅さんのようにアッチを40年読み継いでいる読者の方に会うと、続けてきてよかったなと思います」と笑顔で答えていました。

アッチが作ったあのメニューが食べられるカフェ

 「おばけのアッチ Café」では、作品に登場する5品を再現したメニューを提供しています。『おばけのアッチとドララちゃん』のレシピを忠実に再現した「アッチのいもむしグラタン」(1280円)は、こんにゃくで「いもむし」感を表現。揚げたニョッキのほか、卵やオクラでとろ~んとした食感が味わえる、一風変わったグラタンです。『フルーツポンチ はいできあがり』をイメージした「フルーツポンチソーダ」(780円)は、キウイやマンゴー、青色のゼリーが入ったグラスに、自分でソーダを注ぐスタイル。2品を試食した角野さんは「いもむしグラタンは、書いているときはちょっと過激かな?と思ったんですが、意外と子供に人気だったんです。オクラもグラタンに合いますね」と味にも満足した様子。

 さらに期間中は、キャラクターの服の柄をモチーフにしたトートバッグや、作中のイラストを使用したマスキングテープなど、12アイテム25種の限定グッズを販売。ついついお財布の紐が緩んでしまいそうですね!

 子供の頃に読んで懐かしいと思う方、お子さんやお孫さんともう一度「アッチ」を読んでみようかな、という方はぜひご一緒に「アッチ」の世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。