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#04 一日を迎えるための朝粥と薬膳茶 妃川螢さん「謎解き茶房で朝食を」

文:根津香菜子、絵:伊藤桃子
ボウルから立ち上る湯気が、鼻腔を擽(くすぐ)った。店の外で嗅いだ出汁の匂いだ。ふんわりと炊きあがった粥の真ん中には、針生姜と香菜と松の実。清々しい香りが、重い瞼を開かせてくれる。薬味皿には、赤紫蘇をまとった梅干しと豆鼓と細切りにされたザーサイ。添えられた小鉢には、割いた鶏肉にタレのかかった惣菜が盛られている。(中略)火傷しないように注意しながら、まずは薬味を避けてお粥だけそっと口に運ぶ。ふわり……と香る鶏出汁。舌の上で、米の甘味が蕩けた。(「謎解き茶房で朝食を」より)

 クリスマスに始まり、忘年会にお正月、そして新年会。年末年始から続いたイベントで胃腸が弱っていませんか? 今回ご紹介するのは、お客さんの体質や体調に合わせてブレンドするお茶と、胃に優しいお粥を出してくれるイケメン兄弟(ここ重要!)が営むお店が舞台のお話です。

 仕事のプレッシャーで眠れない日々が続いていた曄子(はなこ)は、ある日オフィス街で早朝から営業している「蓮心茶房」を見つけます。兄の蓮が朝食用にと作ったお粥とお茶のお相伴にあずかった曄子は、温かな料理ともてなしに体と心が解きほぐされ、毎朝のように通い始めます。作中には薬膳の知識も散りばめられていて「私に合うのはどんなお茶かな?」「こんな朝ごはんが食べられたら良い1日になるなぁ」と、つい想像してしまいます。著者の妃川螢さんにお話を伺いました。

どこかの石油王が投資してくれたら、こんなお店を開きたい(笑)

――東洋医学に基づき、一人ひとりの体質・体調に合わせて調合したお茶やお粥を提供するカフェが物語の舞台ですが、お茶やお粥についての思い出を教えてください。

 扁桃腺もちで幼いころからよく高熱を出し、母が白粥や大根飴をつくってくれた記憶があります。お粥に添えられているのは、祖母が漬けた梅干しでした。日本のお粥はどうしても「病気のときに食べるもの」というイメージが付きまといますが、台湾の屋台や香港で食べる食事としてのお粥も大好きです。小粒の牡蠣と皮蛋(ピータン)の入ったお粥が最高でした。台湾や大陸に旅行するときは、ホテルの朝食に大抵お粥があるので、食欲がないときでも果物とお粥だけいただいたりします。

 薬膳茶に関しては「ちょっと調子が悪いな」と感じたときに、自分の体調に合わせて自分で調合して飲みます。薬を飲むほどでもないし……という初期の不調に効果的です。

――漢方や薬膳の資格をいくつかお持ちとのことですが、資格を取ろうと思った理由や、どんなところに興味を持たれたのか教えてください。

 以前、突然倒れて救急搬送され、緊急手術の憂き目に遭ったことがあります。開腹手術後の急激な体力低下とホルモンバランスの乱れから、ありとあらゆる体調不良に見舞われました。その時に西洋医学では根本解決できないと痛感し、まず食生活を見直そうと考えたのがきっかけです。その後、様々な食養メソッドを学んだ一つに、漢方・薬膳の分野がありました。一つのメソッドを妄信するのは無知以上によくないことだと考えているので、関連する多数のメソッドを学び、今も継続中です。

――弟思いの心優しい兄・蓮に、キラキラアイドル系の弟・棗という仲良し美形兄弟が営む「蓮心茶房」がどこかに実在しないのか?と本気で探したことのある私ですが(笑)、実際に妃川さんはこんな“心ときめく”お店と出会ったことがあるのでしょうか?

 なかなか出会えないですね。なので、拙作の中で理想のお店を登場させた、という経緯があります。リアルな話、作中に描写しているようなサービスをしていたら、お店の経営はとても成り立たないと思いますし……。どこかの石油王が投資してくれたら、私が開きたいくらいです(笑)。でも、美味しいものは大好きで食べ歩きも好きなのですが、店主のこだわりの見える、本当に美味しいお店に出会えたときは「生きててよかったー!」と思いますし、この感動を誰かと分かち合いたいと思います。

――執筆中に召しあがっているものを教えてください。

 執筆中はもちろん、自宅にいるときは一日中ひたすら中国茶を飲んでいます。中国茶に関しても資格を取得しているので、その勉強継続の一貫として、毎日ちゃんとした茶器で厳選した茶葉を使って淹れています。信頼できる専門店で購入したものもありますが、自分で台湾や大陸に足を運んで購入してきた茶葉もあります。一作書き上げると、特別にとっておいた稀少な茶葉やお気に入りの茶葉をゆっくり丁寧に淹れて飲むのが至福の時ですね。

――今のような寒い時期におすすめの食べ物はありますか?

 お野菜もたくさん摂れて一品でお腹もいっぱいになる鶏団子スープをよく作ります。本当は骨付きの鶏肉をコトコト煮て、エキスを抽出したスープをいただくのが一番良いのですが、忙しいとなかなか難しいですよね。作中にも鶏出汁のお粥が登場しますが、鶏のスープは営気を養ってくれるので、疲れた時などにおすすめですよ。