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イ・ラン「悲しくてかっこいい人」書評 核心えぐりだす なぜなぜ攻撃

評者: 寺尾紗穂 / 朝⽇新聞掲載:2019年02月02日
悲しくてかっこいい人 著者:イ ラン 出版社:リトルモア ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784898154960
発売⽇: 2018/11/16
サイズ: 19cm/261,15p

悲しくてかっこいい人 [著]イ・ラン

 数年前知り合いがイ・ランのCD「ヨンヨンスン」をくれて、一聴して好きになった。昨秋東京の音楽イベントで初めて会った彼女は、ジャケットで見た長髪ではなくショートカットだったけれど、そのことはすでに知っていた。一昨年の韓国の音楽賞でもらったトロフィーを、彼女がその場でオークションで50万ウォンで売っぱらったという写真入りニュースは、鮮烈なインパクトで記憶に残っていたからだ。
 たとえば家に帰らなかった憎い父について、彼女はこう考えてみる。たまに自分も元気な猫の世話を放置する。父は「わたしが元気に暮らしてるから、ほったらかしだったのか」。あるいは真剣に考える。なぜ年をとると顔が大きくなるのか、「顔に筋肉がつくから? あごが発達するから?」。彼女は、身近なことから、深刻なことまで、まるで「なぜなぜ攻撃」で母親を困らす子どものように、いくつもの問いを放り投げてくる。その率直さは時に笑いを誘い、時に詩のように胸につきささる。
 多くの人が漫然と流されて忘れているものを彼女は見つめる。舞踊の公演を見た帰り道について記した一節は特に印象的だ。「わたしたちはただ静かに歩いて家に帰っていく。重たい靴の中で小さな足の指たちを動かしながら。『ダンスは美しい』と頭だけで考えながら」。人間がもっと自由に歌い、踊り、泣けていたころの記憶を、彼女の魂は覚えているのかもしれない。優れたアーティストはただ単にエキセントリックな存在ではない。人とつながり、世界の調和を体現する存在でもある。昨年、彼女はフェミニズムについての文章の中で「(私は)もっと多くのジェンダーとともに進むだろう」と書いた。
 直球の問いによって核心をえぐりだす、訥々(とつとつ)と正直な文章の終わりに、イ・ランという人間について鮮やかに描き出した「訳者あとがき」もまた、本書に特別な余韻を添えている。
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 Lang Lee 1986年、ソウル生まれ。16歳で高校中退、家出。日記代わりの自作曲が話題になり歌手デビューした。