「尾木ママー!」。元気いっぱいな子どもたちの呼びかけに「はーい!」と茶目っ気たっぷりの笑顔で体育館に登場した、教育評論家の尾木直樹さん。大きな拍手を浴びながら、興奮気味の児童たちの間に入ると「頭じゃなくて心を使って、心から心に伝えるお話をしますね」と、あいさつした。
事前のアンケートで、みんなの悩みを聞きとっていた尾木さん。友人関係、勉強、家族。様々な悩みが寄せられたなか、尾木さんが特に気になっていたのは「いじめ」に関するものだ。
「いじめられちゃう、いじめちゃう、どちらの悩みもあったの。どんなときに悪口を言いたくなる?」と子どもたちにマイクを向けた。
「むかついたとき!」と男の子。「ではムカムカ、イライラ感情の正体は一体何でしょう?」と問いかけ、「ストレス!」とすぐさま声が返ってきた。
「いじめの原因の70%はストレスといわれています。ストレスがたまっていじめたくなるのは人間的な感情なんです」と尾木さん。いじめる子だけが特別なわけじゃないのだ。「心の中に、いじめをしてしまう自分がいるの。誰もがいじめたり、いじめられたりする可能性がある、全員の問題。みんなで考えなければいけないわね」
「でもそれを乗り越える智恵と賢さを、みんな持っているはずよ」と、尾木さんはすかさず「ストレスをため込まないためには?」と問いかけた。
すると、「ポジティブシンキング!」「叫ぶ」「運動する」と次つぎに手が上がり、「ずっと笑ってる!」と元気な声が上がって、みんな大笑い。「笑いは力ね」と尾木さん。「みんなが笑っている楽しい学校になればストレスが消えて、いじめが生まれる土台がなくなるわ」と、ある小学校でとり入れられている3つの「しぐさ」を紹介した。
①あいさつしぐさ。あいさつを交わすと、気持ちがいいでしょ。無視しちゃだめよ。
②仲良ししぐさ。一人でいる子には、一緒に遊ぼうと、声をかけてあげて。
③手伝いしぐさ。例えば、体調の悪い子がいたら、保健室に付き添ってあげるの
尾木さんの言葉がみんなの中に染み込んで行くようだ。「週に一回、友だちに言われてうれしかった言葉を学級会で発表して書き出してみて。その言葉が飛び交うような学校にしましょう。児童会で楽しいことをたくさん企画してやってみるのもいいわ。みなさん一人一人が学校の主人公。先生や保護者、地域の人たちは応援団なのよ」
でも、嫌なことをする子はいる。どうすればいいの?「みんな、自分のことはちゃんと見ているかしら?」と、尾木さんはここで課題を出した。「自分の嫌なところはどこかな? その弱点をひっくり返して良いほうに捉えたらどう見えるか、1分間で考えてみましょう」これは枠組みを変えて物事を見る“リフレーミング”だ。
「声がでかいところが嫌だ」という女の子に、尾木さんは「あら、とっても素敵な声よ。歌手になれそう。良いほうから捉えたらどう見える?」
すると、「私の発言をみんなが聞きやすい」と、生徒が笑顔になった。「提出物をすぐ忘れちゃう」という子は、「ほかの楽しいことをたくさん考えている」、「無口」は「よく考えている」、「自分勝手」は「自分の意見をきちんと言える」。
みんなの短所が、キラキラ光って見える。「すぐに人の悪口を言っちゃう」という男の子は、「友だちのことをよく見ている」とリフレーミング。「今度は友だちの良いところを見て、ほめ言葉を贈ってあげましょうね」という尾木さんの言葉に、にっこり頷いた。
尾木さんがみんなに伝えたかったのは、自己肯定の大切さ。「まずは自分の命を徹底的に大事にして。それと同じように、友だちの命も大事にしてくださいね。自分を大切にできないと、友だちも大切にできませんよ」(ライター・岡沢香寿美、写真家・御堂義乗)