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“さいきょうの3にん” のアツすぎる戦いに爆笑! 訳者・中川ひろたかさん「でんせつのじゃんけんバトル」

文:澤田聡子、写真: 斉藤順子

「マカロニウエスタン」みたいなドラマチックさが面白い

――「むかしむかし うらにわおうこくに、ひとりのおとこがいた。なまえはグリグリ。」 “さいきょうのせんし”グリグリは、次々と挑んでくる相手を打ち負かし、向かうところ敵なしだ。もっと強い相手と戦いたい!と、旅に出た彼を迎え撃つライバルは、しょさいていこくのパーペとキッチンきょうわこくのチョッキンナ。「さいきょうの3にん」のバトルやいかに!? キャラクターたちのアツすぎる戦いに爆笑必至、全米で20万部を突破した絵本『でんせつのじゃんけんバトル』(文ドリュー・デイウォルト/絵アダム・レックス/河出書房新社)を翻訳したのは、シンガーソング絵本ライターの中川ひろたかさんだ。

 最初に原作の絵本を読んだときの感想は「けっこう長いな!」。あんまり長いと読み聞かせする親も大変じゃない? でも『でんせつのじゃんけんバトル』は、長さを感じさせない勢いとテンポがあると思った。

 「むかしむかし うらにわおうこくに、ひとりのおとこがいた」っていう始まり方もカッコいいし、対決シーンはマカロニウエスタンみたいにドラマチック。グリグリ、パーペ、チョッキンナという最強の戦士たちが出会うまで、それぞれの境遇もきちんと語らなくてはいけないから、この長さはやっぱり必要なんだよね。

 じゃんけんって、ものすごい発明じゃない? 大人も子どもも関係ないし、公平な遊びだよね。うちの娘は子どものころ、じゃんけんが強くて負け知らず。よく負けてたな〜って、翻訳しながら思い出してました。

 読み聞かせするときはやっぱり対決シーンに力を込めて読んでほしい。「グリグリたいチョッキンナのたいけつ〜!」って、ドラえもんがポケットからアイテムを出すときみたいな感じでね。親子でそれぞれ役柄を決めて読むのも、面白いかもしれない。

「でんせつのじゃんけんバトル」(河出書房新社)より

Rockをグリグリ、Paperをパーペ、Scissorsをチョッキンナに

――絵本の翻訳を手がけるときに心がけているのは「声に出して読んだときのリズムとテンポ」だという。

 英語ってそのまま直訳するとくどくて説明的になってしまう。だから、いかに余計な部分を削ぎ落として分かりやすく、リズムのある日本語に置き換えるかが肝心。「日本語力」がかなり問われる仕事だから、絵本の翻訳を依頼されるのは実はすっごくうれしいんだよね。「中川さんの日本語で存分にやってください!」ってホメられているようで。だからこの絵本でも存分にやりました!(笑)

 原作では3人の名前が、Rock(石)、Paper(紙)、Scissors(はさみ)ってそのまんまなんだけど、日本語版はどうしても「グーチョキパー」から始まる名前にしたかった。それで考えたのがグリグリとパーペ、チョッキンナ。パーペは最初、「パー」から始まる名前がなかなか思いつかなくて「どうしようかな……」って悩んだけど、最後にはそれぞれのキャラクターに合ったネーミングができたと思う。「チョッキンナ」なんて、口調がいかにも「切れ者」って感じでしょう、はさみだけにね!

 気に入っているのはグリグリとあんずの実の対決シーンのセリフ、「ぺしゃんこじょー」。原作だとあんずの実のセリフは“Ugh, I am smooshed!”(あー、つぶされちゃった)。パッと直感で分かるキャッチーな言葉にしたり、そのまま訳すと分かりづらいようなところは、かなり意訳してる。それぞれのキャラクターの口調も英語とは違って日本語だといろんなバリエーションがあるし、工夫できる部分だよね。難しさも感じるけど、これがやっぱり翻訳の醍醐味だと思うし、ぴったりハマる日本語が見つかるとすごくうれしい。

「でんせつのじゃんけんバトル」(河出書房新社)より

「男性保育士」の先駆けとしていろんな子どもたちを見てきた

――絵本作家となる前、当時はまだ少ない「男性保育士」として保育園で働いていたという経歴を持つ。

 大学を中退してから、保育園で5年間働いていたんだけど、当時は保育士が「保母さん」って呼ばれていて、男性はまだ資格が取れなかった時代。保育園で働き始めて2年目の1977年に制度が変わって、男性も「保母試験」が受験できるようになった。その年に合格したので、ぼくは日本で「保母資格」を取得した男性第一号なんです。

 保育士になったきっかけは「人間の元となる本質的なところが見てみたい」っていう素朴な好奇心。どうやって人は歩き始めたり、言葉を話せるようになるのか知りたかった。それは自分がたどってきた道でもあるから。

 保育園で働いて、歌を歌ったり、ジャンプしたり、いつも笑ってる子どもたちを見て、これが人間の本質なんだなって分かった(笑)。あとは、「いろんな子どもたちがいる」ってことだね。個性もいろいろで好き嫌いもいろいろ。絵本の読み聞かせもたくさんしたけど、万人ウケするものはなくて、みんなそれぞれ好みが違うんだよね。だからぼくの作った絵本がその子にウケなかったとしても、気にしない(笑)。たまたま好みが合わなかったっていうだけで、好きだと思ってくれる子も絶対にいるだろうから。

 でも、ぼくの中にある「子どもの部分」で何かしら子どもたちにつながるところはあるんじゃないか、っていうのは感じてる。ぼくが考えた面白いこととか、だじゃれに子どもたちが反応したりするでしょう? それはぼくの「面白がり」と子どもたちの「面白がり」が通じ合ったってことだからね。今65歳なんだけど、たとえば相手が5歳なら、年の差が60歳もあるのに「共通の笑い」が持てているわけじゃない。それってすごいことだし、幸せなことだよね。

“王道”の面白さを追求した絵本作りたい

――1995年に『さつまのおいも』(絵・村上康成/童心社)でデビューしてからこれまでに手がけた絵本はおよそ245冊。一方でシンガーソングライターとしても活躍、子どもの歌や手遊び歌など作詞作曲した楽曲は約2300曲にも上り、「絵本と音楽の二刀流」と笑う。2006年には鎌倉・由比ヶ浜通りに絵本カフェ「SONG BOOK Café」をオープン。「D1だじゃれグランプリ」「A1あそびうたグランプリ」などの大会、親子向けのコンサートやイベント……「面白いことを考えついたら、とにかくすぐに始めたくなっちゃう」という中川さんのアイデアと創作意欲は枯れることがない。

 絵本って親子にとって最高のコミュニケーションツール。読み方のうまさ云々よりも、パパやママに読んでもらうっていうのが一番重要なんだよね。絵本を読んでもらったほんわかした記憶、それって大人になったときもどこか心の片隅に残っているんじゃないかな。打ちひしがれるような辛い経験があったとしても、そのあったかい記憶を思い浮かべればなんとか乗り越えられる……そう信じてる。

 いろんな絵本を作ってきたけど、たとえば3歳っていう年齢は「1年」しかないわけで、やっぱりその瞬間の子どもにふさわしい絵本っていうのはあると思う。3歳には3歳の、4歳には4歳のときに読むと心にぴたっとくる絵本があるんじゃないかな。色々ありすぎて選ぶのが難しいかもしれないけど、本当に子どもの心にきちんと届くもの、子どもの生活が楽しくて豊かになるような絵本を大人たちは選んであげてほしい。

 これから作ってみたいのは、子どもたちがのたうち回ってゲラゲラ笑ってくれるような絵本! 最近よくあるような奇をてらったもの、小手先の面白さのものではなく、常に「王道」で勝負していきたい。ずっと読み継がれる絵本ってそういうものだと思う。子どもって最高にハッピーなとき、ついつい歌が出ちゃうじゃない? 心の底から楽しくて大きな声で歌っちゃうのとおんなじように、絵本も作っていきたいね。

インタビューを行ったのは中川さんのお店、鎌倉・由比ヶ浜通りの「SONG BOOK Café」。店内には国内外の様々な絵本があふれ、親子でおいしいお茶とお菓子、絵本が楽しめる