アイドルグループ・乃木坂46の高山一実さん(25)の初の長編小説『トラペジウム』(KADOKAWA)が、発売から3カ月を経ずに累計20万部を突破した。高校生の少女たちがアイドルになるまでの軌跡を描いた青春小説だ。自身の経験や葛藤を作品に込めた。
高校時代に湊かなえさんの『告白』に出会い、小説の魅力にはまった。友人や先生に恵まれた生活を送る中で、屈折した人間の内面を深く掘り下げる湊さんの作品は刺激的だった。雑誌「ダ・ヴィンチ」でコラム連載や短編小説を執筆し、本作を書き上げた。
アイドル志望の女子高校生・東(あずま)ゆうが、同じ地域に暮らす3人を誘い、4人組グループをつくる。漫画「エースをねらえ!」のお蝶(ちょう)夫人のようなお嬢様、ロボットコンテストで本人のかわいらしさが話題になった高等専門学校生、ボランティアが趣味の陰のある美少女が集結する。最終盤に、題名にもなったオリオン大星雲の中にある四つの星「トラペジウム」が持つ意味が明らかになる。
アイドルを題材にしたのは、自分の疑問や葛藤を表現したい思いがあったから。自身はかつて「モーニング娘。」に憧れてアイドルになった。大所帯での活動で成長を感じている一方で、少人数のももいろクローバーZが「うらやましいと思う時もあった」。登場人物の東がつくるグループも少人数にした。「(アイドルである)自分にとって脅威になりそうなグループの物語を書きたかった」
主人公の東は高いプロデュース能力を持ち大人びているが、心中で毒を吐く。制服好きを公言するさえない男子のことは〈角膜レベルでの変態〉と評し、インプラントの歯を見せる芸能関係の男と出会うと〈偽物の歯から飛んできた言葉など、本物ではない〉とバッサリ。作者自身からみても「嫌な性格」という。ただ、東は「アイドルになりたい」という一途さを持ち、そんな東に自分の思いを託せるようになっていったという。
2年連続で日本レコード大賞を受賞し、紅白歌合戦も出場と売れっ子の乃木坂46。多忙な日々ゆえ、執筆のために予定が丸一日空いていることはなかった。芸能活動との両立は「しんどいが7割、楽しいが3割でした」。公演の合間にカフェで書いたり、深夜から明け方に没頭したりした。「文章が褒められることは素の私を評価されているようでうれしかった。テレビ画面に映る自分を褒めてくれるのとは別のうれしさですね」
今後も文章を書き続けたいと思っている。「私がおばあちゃんになった何十年先まで残り、読んでくれるものだと信じています」(宮田裕介)=朝日新聞2019年2月23日掲載
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