1. HOME
  2. インタビュー
  3. 新作舞台、もっと楽しむ
  4. 「クワイエットルームにようこそ The Musical」作・演出・松尾スズキさん×音楽・宮川彬良さん 「これは自分の話だ」と思えるファンタジー

「クワイエットルームにようこそ The Musical」作・演出・松尾スズキさん×音楽・宮川彬良さん 「これは自分の話だ」と思えるファンタジー

宮川彬良さん(左)と松尾スズキさん=松嶋愛撮影

劇場に負けないカオスな作品に

――今回なぜ「クワイエットルームにようこそ」をミュージカル化しようと思ったのですか。

松尾スズキ(以下、松尾):やはり演劇は劇場ありきなのでね。(自身が芸術監督を務める)シアターコクーンが休館中だから、THEATER MILANO-Zaで上演が決まったとしたら......やっぱり新宿・歌舞伎町というガヤガヤしている街の中にある劇場でしょう? あえて静寂を求めるという考え方もあるんだろうけど、あの街の劇場に負けないものを作るためには、僕は音楽的な要素が入った、カオスな作品がいいなと思いました。

 すると、思い浮かぶのはミュージカル。ミュージカルにできそうな原作をいろいろ探してみたんですが、公演までの時間的な制約も加味して、やはり自分が書いた小説が一番やりやすいと判断しました。「クワイエットルームにようこそ」は僕の小説の中ではシンプルな作品で、ミュージカル化してもちょうどいい上演時間になると思ったし、場所が精神科病院の閉鎖病棟ということで、一つの場所に限られているのも好都合でした。

――原作の小説は20年前の作品です。主人公が締め切りに追われている時点で共感しかないのですが、どういうところから着想を得たのですか。

松尾:自分が感じる息苦しさみたいなものが出発点かもしれないです。と言うのも、当時、僕はめちゃくちゃ連載を抱えていて、さらに原稿用紙20枚分の小説を毎月書いてたんです。しかも6年間も。終わらせ方がわからなくて。もう本当に頭がおかしくなりそうでした。

 だから、主人公の明日香を書きながら、実は自分のことでもあるのかなと。ただ、男性を主人公にしたら少し生々しくなってしまいそうなので、女性目線に変えてみたんです。僕の周りにいる編集者さんの話を聞いたり、酒を飲んだりしながら、いろいろと想像して、明日香を自分に落とし込みつつ書いていきました。

半年かけて作ったものを一度捨てて

――ミュージカル化にあたって、音楽を宮川さんにお願いした理由は?

松尾:今から10年前に、NHKで「ちかえもん」という近松門左衛門のドラマに出演したんです。おそらく僕の最後の主演作なんですが(笑)、そのドラマの音楽を宮川さんがやってくださったんですよ。

宮川彬良(以下、宮川):最後の主演なんて言わないでくださいよ。まだまだやってくださいよ(笑)

松尾:たくさん思い出があるんですよね。脚本もめちゃくちゃ面白かったんですが、宮川さんが作ってくれた音楽もすごく良かった。無国籍というか、和のリズムやメロディーを取り込みながらオーケストレーションしているんです。メロディーラインがキャッチーで、いまだに耳に残っている。だから、今回、物語に音楽を添えることができるプロの方として、宮川さんの顔が真っ先に浮かびました。

――宮川さんとしては、ミュージカル化にあたって大変だったことはありますか。

宮川:松尾さんからのご依頼は嬉しかったし、楽しいだろうなと思ったんですが、いざ創作に取りかかると、こんなに困ったのは人生で初めてというぐらい、困りました(笑)。ある意味、もう本が完成しているというか、出来すぎている。個性的でオリジナリティーにあふれているからこそ、「宮川さんの心からの曲を書いてくれ」と言われているように感じまして......。

 蜷川幸雄さんの音楽劇「身毒丸」で、音楽を担当したときに似ています。今まで僕が勉強してきたことや経験してきたことになぞらえて音楽を作っても、常に「本当にこれは自分がやりたいことなのか?」と突きつけられている感じがした、あのとき。「身毒丸」の時は半年かけて作ったものをいったん全部捨てて、稽古場で一から構築したりもしましたが、今回も同じように「作ったものをいったん全部捨てる」ことを。

松尾:「身毒丸」は音楽劇なんですね?

宮川:歌入りの芝居という感じですね。短歌がたくさん出てきて、そこが歌になっているんですが、実際に歌うわけではなくて、藤圭子さんがテープの中で歌っている――。そんな手法でした。

 いろいろな球種を覚えたのに、全然ストライクが決まらない、というような日々を過ごしました。最初の1行が書けるまでに1カ月ぐらいかかって、ああでもない、こうでもないと試行錯誤して、紛れもなく自分の音楽と言えるものが生まれていると今は思います。

松尾:出来上がった曲を聞いてみると、既存の曲を真似るものかというオリジナリティーにあふれつつ、いろいろなオマージュも入っていて楽しいですよ。ミュージカルというものに対するリスペクトの気持ちも感じる一方、日本発のオリジナルミュージカルを作ろうという気概にあふれているというのかな。これが「ミュージカルではない」と言われたら、僕としては困ってしまう(笑)

枠やスタイルにとらわれないものを

――小説から始まって、映画化もされて、今回はミュージカル化。表現方法が変わる中で、松尾さんの中ではどうすみ分けているのでしょうか。

松尾:そうですね。小説も映画もある状態から始まっているので、俳優さんののみ込みが早いと言いますか、下地がもうできているので、その点は安心しています。

 ただ、今まで言ってきたことと反するようなことを言いますが、“ミュージカルっぽい演技体”になったら嫌だなと思っていました。宝塚歌劇団や劇団四季、東宝ミュージカルと、ミュージカル畑の俳優でも、非常にナチュラルなお芝居をしてくれているんです。奇跡的です。

宮川:それ、すごく分かります。今、すべての曲が出来上がって、あらためて思うのは、こういう作品に出会いたかったということ。ミュージカルって、いろいろな時代や場所に行けるし、基本的にファンタジーですものね。

 昔の外国の話を日本人が演じることも往々にしてあって、お客さんに「分かるよね?」と強いている部分もあるのかなと思うんですけど、「クワイエットルームにようこそ」は現代の日本が舞台だから、俳優さんもお客さんもみんな知っていることが多い。もやもやした感じもワクワクした感じも含めて、「これは自分の話だ」と共感できると感じます。

松尾:僕自身、長い年月をかけて、ミュージカル俳優に対する偏見が削がれてきていると思います。宮川さんが言うように、ミュージカルはファンタジーの要素が強いから、ミュージカル俳優はどこか極端な演技をする俳優と思い込んでいたんですが、彼/彼女らも僕の芝居を観にきてくれたり、映像作品に出ていたりするし、大前提として俳優なんですよね。

――咲妃みゆさんや松下優也さんなど、ミュージカルの第一線で活躍している方々が出演します。

松尾:現代劇とミュージカルを二項対立で語っているわけではないですが、互いにリスペクトを感じますし、結局、僕はそういう枠やスタイルにとらわれないものをやりたいんだと思っています。

 咲妃さんも松下くんも、皆さん、抜群に歌がうまい。例えば、松下くんは「キンキーブーツ」のローラを演じている姿を観たけれど、本当に声量がすごい。今回はまるで拷問のような高音を歌ってもらうんですけどね、それも歌えているんですよ。こういうことはできないです、僕の周りの人間は。

 お客さんもチケット代として1万2500円も払っているのだから、それで日常だけを見せられたくはないはず。商業演劇は商業演劇として、エンターテイメントをお届けしたいと思っています。

縁がなかった「リア王」を手に取って

――お二人は日頃、どんな本を読んでいるんですか。

宮川:僕は小説よりも、グローバリゼーションなど、今の社会を解説している本などを好んで読むのですが、最近、本がどうも読めなくなってしまって。途中までは読むんだけれど、最後まで読まない本が山積みになっています。

松尾:分かります。

宮川:多分、脚本が今の僕の読み物になっているからだと思います。今までテレビの仕事を多く手がけてきましたが、3年ぐらい前から、舞台の仕事に軸足を戻そうと思い始めたんですね。もうひと花か、もうひと暴れか分からないけれど(笑)、最後は舞台だな、と。それで、目の前にいつも読むもの、読まねばならないものがある状況なんです。脚本は役になりきって音読しますし、『クワイエットルームにようこそ』も散々読みました。

松尾:歌と歌の間にセリフが入るので、宮川さんからいただいたデモテープには、宮川さんの音読が収録されています。それがまた上手なんです。

宮川:ありがとうございます。こんな感じで、脚本ばかり読んでいて、普通の読み物が出来ていないです。

松尾:僕も宮川さんと同じで、いろいろなことをやってきたけど、最後はやはり舞台だなと思っているんです。舞台俳優育成のために「コクーン アクターズ スタジオ」を始めたこともあって、最近はシェークスピアを読んでいます。

 僕が芝居を始めた頃に「シェークスピアぐらい読まないと」と思って、「リア王」を買ったはいいけど、電車で読んでいるうちに寝てしまって、挙げ句の果てには電車とホームの間に「リア王」を落としてしまったことがあるんです。ああ、これは縁がないんだなと思ったんですけど(笑)、それ以来です。数十年ぶりのリベンジですが、結構面白いですよ。