「その魔球に、まだ名はない」
10歳の少女ゴードンは野球が大好きで、いつも男の子に交じってプレーをしている。ゴードンの剛腕からくり出される魔球は切れがあり、男の子でもなかなか打つことができない。またバッテリーを組むピーウィーとの息もぴったりなところが、リトルリーグのスカウトの目に留まり、トライアウトを受けることに。見事合格するものの、リトルリーグの規定により女子は対象外とされ、メジャーリーグへと続く道は閉ざされる。そこであきらめずに、女子にも野球ができることを証明するために調査を始めるゴードン。その勇気ある行動は、いまメジャーリーグをめざしている女子野球選手だけではなく、読者にもあきらめないことの大切さと夢を与えてくれる。(ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん)
「ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて」
まだ見ぬ世界を求めて、24歳の時にブラジルへ自費移民として渡った著者。好奇心の塊のような若き日のまなざしで、言葉を教えてくれたルイジンニョ少年や彼の家族のことなど、その頃の体験が生き生きと語られる。デビュー作の記念復刊。思うように生きられなくなっている人に勇気をくれる一冊。(丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん)
「こんとん」
単純にウケたり泣けたりする本ではない。なにせ、こんとん=渾沌。中国神話の怪物の伝説から生まれた絵本。誰でもないから何にでもなれる。いつも空を見上げて笑っている。文も絵も装丁も総動員で渾沌を醸し出す。道理を強いてはいけない。わからないから読み返す。ゆっくりおかしみや悲しみやいとしさが立ち上る。(絵本評論家・作家 広松由希子さん)=朝日新聞2019年2月23日掲載