風呂を愛する古代ローマ人が日本の銭湯にタイムスリップする漫画『テルマエ・ロマエ』の大ヒットで知られるが、このところ著者の母の生き方や子育てが関心を集めている。
「何をやってもお母さんらしくない人」。遠足のお弁当がマーガリンと砂糖を塗った食パンだったとか、あっさり学校をずる休みさせてくれたとか、「規格外な母」のエピソードは数知れない。「子供心にこりゃダメだ、母業三行半(みくだりはん)だと思って、普通を欲してもいなかった」と言う。本書で母を「リョウコ」としているのも「母というよりリョウコという変な生き物を俯瞰(ふかん)して観察する」ためだという。
リョウコさんは現在86歳。ばあやに付き添われてミッションスクールに通う令嬢だったが、27歳の時、音楽の道に進みたいと、親の反対を押し切って神奈川県から北海道に移り住む。交響楽団のヴィオラ奏者をしながら娘2人を1人で育てた。
「母はうちを周りの親子と比べなかったのがありがたかった。私がみんなと足並みをそろえるのが無理だと思ったんでしょうね。嫌がることは無理強いせず、将来は絵をやりたいと言って先生に苦笑されても、私を信じて、欧州に行って本物の絵を見るチャンスをくれた。結果、自分の決断に責任を持てる育て方をしてくれた」と振り返る。著者は14歳で独仏を一人旅し人生の大きな転機となった。また留学先のイタリアからシングルマザーで帰った時も、リョウコさんは「孫の代までは私の責任」と笑顔で迎えてくれた。
「元気になれた」「パワーがもらえた」と読者から感想が来る。「子育てに切羽詰まった人が読むと、こんなんでもいいんだ、ってなるんじゃないですか」と笑う。「日本のお母さんは周りの基準に全部合わせようとして疲れている。つらそうな親を見たら、子供も自分のせいかと悩むんじゃないですか」
最後に著者自身の子育てについて聞いてみた。ハワイ大学に通う24歳の息子がいる。「子育てするぞっ、と意識して接したことはないです。親がしっちゃかめっちゃかでも、いつの間にか自立してました」。リョウコ以上にリョウコ流のようだ。(文・久田貴志子 写真・篠田英美)=朝日新聞2019年3月16日掲載
編集部一押し!
- 著者に会いたい 佐滝剛弘さん「観光消滅 観光立国の実像と虚像」インタビュー データで解明する問題点 朝日新聞読書面
-
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 群像新人文学賞・豊永浩平さん 沖縄に生まれ、沖縄を知らなかった。ここから始めないと、この先書けない 「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#20 清繭子
-
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 きさらぎ駅、くねくね……新しい時代の怖い話を追いかけて 廣田龍平さん「ネット怪談の民俗学」インタビュー 朝宮運河
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 代打職人も俳優も待つのが仕事。「11人いる!」が教えてくれた使命 中江有里の「開け!野球の扉」#21 中江有里
- インタビュー 「ハリー・ポッターと賢者の石」日本語版出版から25 年 翻訳者・松岡佑子さんインタビュー 「ここまで惚れ込んだ作品、他にない」 坂田未希子
- インタビュー 三好愛さん初絵本「ゆめがきました」インタビュー「眠るのが苦手な子も、夢を楽しみながら眠って」 阿部花恵
- イベント 「今村翔吾×山崎怜奈の言って聞かせて」公開収録に、「ツミデミック」一穂ミチさんが登場! 現代小説×歴史小説 2人の直木賞作家が見たパンデミックとは PR by 光文社
- インタビュー 寺地はるなさん「雫」インタビュー 中学の同級生4人の30年間を書いて見つけた「大人って自由」 PR by NHK出版
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社