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旅するように世界の料理を作る 宮﨑あおいさん「世界をいただきます――ヨーロッパ・中東・アフリカ編」

文:熊坂麻美、写真:時津剛

レストランの厨房で世界の料理を学ぶ

――こちらの連載は料理好きの宮﨑さんの「もっといろんな料理を作れるようになりたい」という思いから始まったそうですね。中東やアフリカなどの日本ではあまりなじみのない国の料理もたくさん紹介されています。

 いろいろな国の料理をレストランの厨房でシェフの方に直接教えていただきました。イランやマダガスカル、チュニジアなど、私自身が行ったことのない国の料理も多かったので、とても新鮮で。ほとんどのシェフがその国の方だったので、それぞれのお国柄や文化も垣間見えて、それもおもしろかったです。

――宮﨑さんが毎回楽しそうにお料理されているのが写真から伝わってきました。

 もちろんとても楽しかったのですが、初めてお会いするシェフに料理を教えていただくので、毎回緊張もしていたんです。でも、みなさんとてもやさしくて、教わりながら徐々に肩の力が抜けていったり、言葉が通じなくてもジェスチャーでわかりあえたり。作り方だけでなく、お料理を介した温かなコミュニケーションも体験させていただいて、本当に貴重な時間でした。

――この本の最初のメニュー、「リコッタチーズとトマトのサラダ」と「えびときのこのリゾット」を作ってみました。私は料理が得意ではないのですが、書いてある通りにやったらちゃんとおいしくできました。チーズが自分で作れることも驚きでした。

 イタリア料理の落合務さんのレシピですね。私も「チーズは買うもの」というイメージがあったので、教えていただいたときは驚きました。シンプルな材料で簡単に作れるというのはうれしい発見ですよね。

 次はぜひ、ベラルーシのドラニキを作ってみてください。ドラニキはすりおろしたじゃがいもをカリカリに焼くベラルーシの国民食。私はおいもが大好きなのでハマってしまいました。最後に、おろしにんにくを指で塗るのがポイントです。ちょうど昨日作りましたが、にんにくをうっかり忘れたので、少しぼんやりした味になってしまって(笑)。

――にんにくが重要なんですね。今度作ってみます。連載を通してたくさんのシェフに教わってきたなかで、とくに心に残っていることはありますか?

 あるシェフの包丁さばきがとても美しかったことです。シェフが切り方を実演してくださったのですが、リズミカルに切っていく姿や所作があまりにきれいで、ぼーっと見惚れてほとんど説明を聞いていなかったくらいです。

 それにもつながりますが、道具の大切さも実感しました。落合さんがとてもよく切れる包丁を使っていらして、私もそれをいただいたんです。切れ味のいい包丁を使うと、野菜などの食材が崩れずにきれいに切れますし、味にも関わってくるんですよね。その包丁は砥いで手入れをしながら使っていくタイプのものなので、今度包丁砥ぎも教わりにいきます。少しずついい道具を揃えてお料理していきたいです。

美味しい料理に欠かせないのは「気持ち」

――落合さんといえば、宮﨑さんとのお話のなかで「美味しい料理は誰にでも作れるんですよ」とおっしゃっていて、それがとても印象的でした。

 あの落合さんにそう言っていただけると、心強いといいますか自信が湧きますよね。

――宮﨑さんは、美味しい料理を作るためにはなにが大切だと思われますか? 

 食べてほしい人がいるというのは、料理を楽しく、おいしくしてくれるひとつの要素かなと思います。それから、自分の「食べたい」気持ちに素直に従うことも大事だと思います。「今日はカレーが食べたい!」と思って、カレーを一生懸命作ったらやはりすごくおいしく感じる気がしますし。誰かに食べさせたい気持ち、自分が食べたい気持ち、これを大切にしながら料理すること、でしょうか。

 今回さまざまなレストランでシェフに教えていただいて気づいたのは、私たちが家で家族を思って作る料理も、シェフがレストランでお客さんを思って作る料理も、「おいしく食べてもらいたい」という気持ちは同じなんだなということ。その気持ちさえあれば、多少失敗しても大丈夫と、自分に言い聞かせています(笑)。

――先ほどのドラニキ以外で、宮﨑さんが繰り返し作っているものはありますか?

 レバノン料理のタッブーレというパセリのサラダです。これは本当に、毎日食べたいくらい気に入っています。パセリを刻んで、トマトや玉ねぎ、ブルグルという挽き割小麦と和えて味付けするだけ。とても簡単なのにおいしくて、おすすめです。

 これまでパセリは添え物のイメージがあり、ほとんど食べたことはありませんでしたが、タッブーレならボウルに山盛り作ってもペロッと食べることができます。これにクリームチーズを足したり、アレンジしながら楽しんでいます。

――料理のアレンジはよくされるんですか?

 しますね。食材を足す以外にも、たとえば角煮を作ったら、次の日は生地を作って包んで角煮まんにして食べたりします。ひとつの料理を変身させていくのが好きなので。

――角煮まんなんて、ハイレベルです。じっくり時間をかけて作る煮込み料理もお好きとか。

 はい。ことこと煮込んでいる時間は無条件に楽しいです。あとは食材を刻むのが好きなので、「刻みたい!」と思って料理をすることも(笑)。タッブーレは、パセリを大量に刻むところもお気に入りなんです。

「母の味」はつながっていく

――この本で紹介されているのは、各国の家庭料理がほとんどで、それぞれのシェフの思い出ともつながっているのが興味深かったです。宮﨑さんは家庭で親しんできた「思い出の味」というと、なにを思い浮かべますか。

 母のハンバーグですね。ケチャップとソースを混ぜた味付けの普通のものだけれど、パイナップルをのせるのが母流なのです。私もハンバーグを作るときは必ずパイナップルをのせますし、酢豚もパイナップル入りが好き。母がお料理にフルーツを使うことが好きだったので、自然とそうなった気がします。

 母が好きな食べ物は私も好きで、ごはんを食べに行って同じメニューを選ぶことも多いです。味覚も料理も、「私の味」は母によって作られたんだなあと感じますね。

衣装協力:MUVEIL(GALLERY MUVEIL:03-6427-2162)

――お母さんから受け継いだ味はたくさんあるんですね。

 母の定番だった料理は私もよく作りますし、「受け継ぐ」という意味では、おせち料理がそうかもしれません。おせちはもともと祖母が作っていて、それから母が作るようになり、お正月に家族みんなでそのごちそうを囲んだ思い出があります。それを私も受け継ぎたいと思い、母に聞いたり、母が読んでいた料理本を借りたりしながら、何年か前からおせち料理を作るようになりました。

――受け継ぎたいと思われたのは、どうしてでしょうか。

 自分が両親にたくさん影響を受けてきたように、私もこれから子供に影響を与える存在になっていきます。日本の伝統食や季節の行事を大切にする暮らしを受け継いで、子供に伝えていきたいと思ったのが大きいです。

――ドラニキやタッブーレなどの『世界をいただきます』の料理も、これから宮﨑さんの家庭の味になっていきそうですね。

 いまちょうど、家でこの本を読みながら復習のようにいろいろお料理しているところです。ひととおり作れるようになって、家族に食べてもらったり、友人におもてなしができればいいなと思っています。次に作りたいのはフランス菓子のスフレ。シェフと一緒に作ってとてもおいしかったので、少しハードルは高いですがマスターしたいです。

――この本は「食」を通してその国を知るきっかけにもなりますね。どんな風に楽しんでほしいですか?

 レシピ本ではありますが、それぞれの国の人々や文化を想像すると、世界中を旅する感覚でお料理が楽しめるのではないかなと思います。レストランの情報も載っているので、まず料理を作ってみて、その後にレストランで答え合わせのように「本物」を味わうのも新鮮な体験になりそうです。

 私はこの連載で、お料理をする喜びが再発見できたので、読んでくださった人にも、この本が新たな食の楽しみと出合うきっかけになってくれたらうれしいです。