経済危機下のギリシャで財務大臣を務めた経済学者が、十代の娘に経済について語るという設定だが、単なるマネー教育の本ではない。「とんでもなくわかりやすい」だけでなく、とんでもなくおもしろいのだ。
「どうして世の中にはこんなに格差があるの?」。そんな娘の問いを起点に、壮大な思考の旅が始まる。人類の歴史をたどりながら経済の本質に迫り、資本主義の何たるかを解き明かす……。ギリシャ神話や『フランケンシュタイン』、SF映画「マトリックス」など、古今の物語からの引用も効果的。知的好奇心を刺激するドラマチックな展開に、ぐいぐい引き込まれる。
著者によれば、すべては農作物の余剰から始まったという。余剰を記録するために文字が生まれ、債務や通貨や国家が、そして軍隊や宗教が生まれた。詳しい説明は本書に譲るが、一冊で仮想通貨や公的債務の是非、環境問題まで網羅しているのも驚きだ。
中世における宗教と同様に、現代では経済学が支配者の権力維持に使われているという。科学的に思える経済理論も、資本主義の正当性を裏付けるため編み出されたもの。つまり経済を“専門家”にゆだねてはならぬと説く。=朝日新聞2019年4月6日掲載
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