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遅咲きの監督が語る「いま会い」への深い愛 韓国映画「Be With You ~いま、会いにゆきます」のイ・ジャンフンさん

文:永井美帆

 市川さんが自分自身と妻、母親をモデルにして書き、2003年に出版された『いま、会いにゆきます』は、映画の大ヒットとあわせ、日本中に「いま会い」ブームを巻き起こした。現在までの累計発行部数は140万部超。05年には韓国でも翻訳、出版され、多くのファンを集めている。

 来日前、イ監督は映画化までの長い道のりと思いをメールで好書好日に寄せてくれた。「この小説を初めて知ったのは、周囲の反対を振り切って映画監督の夢を追いかけていた2010年ごろでした。当時、息子が小学校入学を控えているのに、ごくわずかな収入しかなく、周りの人の助けを借りながら、このまま夢を追いかけるべきなのか葛藤していました。時間が経つにつれ、監督になる夢がどんどん遠ざかっているようで、焦っていました。それ以上に、愛する家族のためにしてあげられることより、してあげられないことの方が多いという現実が最もつらかったです。もともと映画の演出には自信を持っていましたが、監督としてデビューするためにはシナリオが課題でした。良い文章が書けるようになりたいという思いから、図書館で手当たり次第に小説を借りて読んだ中の1冊がこの小説でした」

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 地下鉄での帰り道、読みながら涙がこみ上げてきたことを今でも記憶している。「立ったまま涙が止まらなくなり、途中の駅で降り、しばらく泣いてから家に帰りました。妻と息子を幸せにしてあげたいのに、することが出来ず、自分を責めながら生きている主人公の巧が自分と重なりました。妻の澪(みお)が巧に言った『私は幸せよ。何もいらない。ただ、あなたの隣にいられるだけでいいの』という言葉が、まるで僕に言っているように感じ、涙があふれてきました。この言葉は僕の心を軽くしてくれ、この小説が僕にとって最高の物語になりました」

 その頃のイ監督は無名の新人。監督デビューの道を模索するも、出資やキャスティングが難航し、何度も制作が中断してしまう状況だった。「こんな名高い小説を映画化することは夢見ることすら出来ませんでした」。ところが4、5年が経ったある日、たまたま知り合いの映画制作者から「小説を原作にして映画を撮ってみないか?」という誘いがあった。撮りたい作品として迷わず『いま、会いにゆきます』を挙げた。

「Be With You ~いま、会いにゆきます」の撮影風景

 「信じられないチャンスが訪れました。あまりに素晴らしく、僕も含めてファンが多い作品なので、自分が手を触れて良いものなのか悩んだし、こわかった。だから、最初は原作の世界観を最大限壊さない方向で作るべきだと考えました。しかし、『中途半端に似た作品を作るくらいなら、思い切って変えてみよう』と考え直し、韓国の観客が喜んでくれる作品、そして、自分が見たい映画、自分が作りたい映画を撮ろうと決めたんです」

 監督だけでなく、脚本も担当した。原作に手を加えた部分も多い。「僕が映画を見る時に最も重要視しているのは『楽しさ』です。少なくとも映画を見ている2時間は現実を忘れ、幻想の世界で楽しさを感じたいからです。それは、作りたい映画について考える時も同じ。原作は悲しい恋愛物語ではあるけど、ただ悲しいだけじゃなく、思わず笑ってしまうような要素もありますよね。だから、映画でも主人公たちが幸せな姿は最大限面白く、愉快に描こうと思いました。そのために、原作には登場しないウジンの友人でお調子者のホングを加え、笑いを誘うような場面を作りました」。さらに、原作にはなかった成長した息子の姿も描くことにした。「雨の季節が終わり、再びスアがいなくなった後も、ウジンがジホを立派に育てたということを見せたかったんです。彼らが幸せに暮らす様子を見て、この映画を見た人が大切な人のことを考えたり、大切な人の手をそっと握ったりしてあげて欲しいと思いました」。韓国では昨年3月の公開後、わずか15日で観客動員200万人を突破し、恋愛映画としての最速記録を打ち立てた。

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 東京・新宿で4月7日に開かれたトークイベントにはイ監督と市川さんがそろって登場。市川さんも韓国版映画の大ヒットに喜びを語った。「この小説はこれまでに4回映像化されているんですが、ソ・ジソブさんが演じたウジンが、僕が小説を書きながら思い描いていた主人公、そして主人公のモデルとなった僕自身に一番近い。どこか夢見がちで頼りない男ウジンに親近感を覚えました。そして、今回初めてお会いしたイ監督にもシンパシーを感じています。愛妻家で、一人息子がいて、電車好きと共通点がたくさんあって、まるで韓国から弟が来てくれたような気分ですね」

 2人は今回のトークショーが初対面の場となったが、実は以前からメールでのやりとりを続けていた。「僕のインスタグラムに、監督の奥さんからメッセージが届いたんです」(市川さん)。それがきっかけでメールで様々な話をするようになった。その中で市川さんが感じた監督の第一印象は、「とにかく優しい人」。「実際にお会いしても、本当にそのまま。だから、この映画もこんなに優しい手触りになったんですね。最近は誰かを裁いたり、罰したりするような話が多いけど、この映画は『許し』と『寛容』の物語だと思います」

トークショーに登場したイ・ジャンフン監督(左)と市川拓司さん=4月7日、東京・新宿

 監督にとっても市川さんは「以前から大ファンで、ずっと会いたかった人」だった。市川作品からは多くの「愛」を感じたと話す。「僕はカバンの中に1冊でも本がないと不安になるくらいなんですが、最も好きな作家はもちろん市川さん、そしてフランスのギヨーム・ミュッソです。2人の作品のトーンは異なりますが、『愛』というテーマをファンタジーやサスペンスといった要素を加えることで、観念的ではなく、楽しく描いています。そういった部分は僕の作品と似ているかもしれません。主に読むのは小説や漫画ですが、その95%が日本のものなので、読書に関しては偏食だと言えるかもしれませんね(笑)。浦沢直樹さん、福本伸行さん、沼田まほかるさん、重松清さん、浅田次郎さん……。好きな漫画家や小説家はとても多いです。僕にとって本は、人を理解するための大きな教えを与えてくれた師匠のような存在。本を通じて人々の多様な考えや行動に接したことが、僕の偏狭な視野を少しずつ広げてくれました。このような学びは、これからも永遠に続いていくのだと思います」

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