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きたがわめぐみさん、絵本「おトイレさん」インタビュー 謎の紳士がトイレをサポート

文:澤田聡子、写真: 佐々木孝憲

初めて「おじさんキャラ」に挑戦した絵本

――ピンと整えられた小粋な口ひげがトレードマーク、森の動物たちがおトイレに行きたいときは二つ返事で「まかせてちょんまげ」「うん・どうじょう」と助けてくれる。まだオムツが外れないキリンの坊やの初めてのおトイレも「あ そーれ!」「がんばれっ がんばれっ/ふんばれっ ふんばれっ」と楽しくサポート。ちょっぴり怪しげな雰囲気も魅力的な頼れる紳士、その名も……「おトイレさん」! トイレトレーニング中の子どもたちの心強い味方である「おトイレ界のニューヒーロー」を生み出したのは、絵本作家のきたがわめぐみさんだ。

 おトイレさん誕生のきっかけは、担当編集者さんからの「トイレの絵本を作ってみませんか?」という一通のメール。「トイレのおじさんが森のみんなのおしりを温めてくれるような……不思議でユーモラスでちょっと怪しい絵本はどうでしょう」とおっしゃる担当さんに「おじさんが出てくる絵本か……」と最初はちょっと戸惑いました。それまで子どもたちや動物のキャラクターが出てくる絵本が中心だったので、初めて「おじさんキャラ」に挑戦した作品でもありますね。

『おトイレさん』(教育画劇)より

 チャームポイントはきれいに手入れされたおひげ。「トイレのお話だからこそ、上品にしたい。そのためにはおトイレさんが“紳士”でなくては」と思い、素敵なおひげを付けました。優しいジェントルマン、おトイレさんは「私の中にいるおじさん」そのものでもあります。でもどんな人にもいるんじゃないかなあ、「心の中のおじさん」が……。

――無類のダジャレ好きであるところもキュートなおトイレさん。「うん・どうじょう」「いっトイレー」「おべんきでー!」などの“おやじギャグ”も、子どもたちに大人気だ。

 個人的にダジャレを言うおじさんってとてもかわいいと思うんです。おじさんと言えば、ダジャレ!ですしね(笑)。ダジャレ作りに関しては思いのほか苦労しました。イラストレーターの仕事で言葉遊びのページを担当していたことがあったので慣れていたつもりだったんですが、トイレに絡めたダジャレって意外に難しくて。

 悩んでいたある日、「トイレ行ってくるね!」と言うと、必ず「いっトイレー! おべんきで〜」と返してくれる学生時代の友人のことを思い出したんです。友人にすぐ電話して「絵本に使っていい?」って聞くと、「これは昔からある古典で私が考えついたものじゃないので、お好きなようにどうぞどうぞ」って。

『おトイレさん』のラフ。当初のタイトルは『トイレおじさん』だった

 古典的なギャグだと思うので「今の子どもたちに受け入れてもらえるかな……?」と心配だったのですが、読者の方から「ダジャレのところで必ず笑います」という声が届いてホッとしました。時代が変わっても、子どもたちの「ダジャレ好き」って変わらないのかもしれないですね。

 キャラクターが固まってから、ストーリーの大筋はそれこそ「スルン!」とおトイレみたいにスムーズに作れました。おトイレで出したときの喜び、自分でできたという誇らしい気持ち、「トイレってとっても気持ちいい!」と、素直に伝えられるお話にしたかったんです。

幼稚園の先生から絵本作家へ 「絵の面白さ」に目覚める

――「昔から夢は幼稚園の先生。絵本作家になるとは思っていなかった」と振り返るきたがわさん。保育の専門学校を卒業し、幼稚園教諭として働き始めたが、突然の事故に遭い半年も入院することに。入院生活中に「絵を描くことの楽しさ」に気付いたという。

 ずっと目指していた幼稚園の先生になった直後、事故に遭ってしまって。結構ひどい骨折で入院することになったんです。「せっかく幼稚園の先生になれたのに……」ってすごく落ち込んだんですけど、そのとき受け持っていたクラスの子どもたちが「めぐみせんせいへ」って、お見舞いに絵を描いてくれたのがとてもうれしかったんです。「あ、絵っていいな、元気が出るな」と思って、自分も描いてみたら、すごく楽しくって。「わたし、絵を描きたい! 絵本を作る人になりたい!」と、思うようになりました。

 そんな経緯で絵を描くようになったのが二十歳。まだ若くてすごく無鉄砲というか……変な勇気があったんですよね。「絵本作家になるにはどうすればいいんだろう?」って考えても分からず、「分からない事は教えてもらおう」と思って。絵本の奥付に載っていた編集部の電話番号に電話して「絵本作家になりたいんですけど、どうしたらなれますか?」って聞いたんです。私は本当に運が良くて温かく教えていただいたのですが、今思い返すと申し訳なくて申し訳なくて……。「よく怒られなかったな」とも思います(苦笑)。

 駆け出し時代はいろんな出版社を回りましたが、無知だったので最初は名刺すら持っていませんでした。「きたがわさん、名刺があると便利だよ」とか、「自分のイラストを見てもらうときは“ポートフォリオ”を作って渡したほうがいいよ」とか、お会いした編集部の方に一つ一つ教えていただいて……。初めての仕事は幼児雑誌のカットでした。請求書の書き方、仕事の進め方なんかも全然知らなかったので、周りの皆さんのおかげで一歩ずつ大人になった感じです。感謝してもしきれません(笑)。

絵本デビュー作『3びきのろしありす』(教育画劇)の原画。目の粗い紙やすりに描いた絵を撮影して絵本に。やすりに描くことで温かみのある独特の風合いが生まれる

 そうやって少しずつイラストレーターとして仕事をするようになり、初めて「絵本を作りませんか?」と声をかけてもらって作ったのが、2005年に出版した『3びきのろしありす』(教育画劇)。当時は「紙やすり」にペンキを塗って水彩ガッシュで色を塗っていました。絵を描き始めてから、段ボールとか発泡スチロールとか、いろんなものの上に描いてみたんですが、一番ワクワクする素材が「紙やすり」だったんです。でもずっと「私は“やすりの力”を借りすぎているなあ」とも思っていました。いつか紙にも描けるようになりたいと思い続けて、初めて紙に描いてみたのが『おトイレさん』だったんです。「脱やすり」の意味でも、新しい挑戦をした作品だったかもしれません。

『おトイレさん』の原画。「トイレのツルンとした質感を出したかったので、初めて普通の紙に描きました」(きたがわさん)

「日常生活につながる絵本」を作りたい

――2013年の『おトイレさん』に続き、翌年出版した続編『おトイレさん びょうきになる』(いずれも教育画劇)も読者に好評。『1ねんせいじゃ だめかなあ?』(ポプラ社)など、小学校低学年向けの幼年童話にも挑戦し、ますます活躍の場を広げるきたがわさん。作り出す物語の根底にあるのは、子どもの心にそっと寄り添う姿勢だ。

 

 私自身が未熟だからかもしれないんですけど、誰かに「こうやりなさい」って指示されるよりも、ふわっと言われた一言で「あっそうだ!」ってひらめいて、何かできたときのほうが喜びが大きい気がして。そこにはかなり注意を払いました。

 この絵本がもしもトイレトレーニングの手助けになれたのであれば、「それは絵本のおかげじゃなくて、あなたが自分で気付いて頑張ったからなんだよ」って言ってあげたい。子どもたちの心に寄り添った姿勢で作りたいというのは、いつも思っています。

 絵本って作家ができるのは「作る」ところまで。最終的には読者である子どもたちやみなさんが仕上げてくださるものだと思うんです。「おうちのおトイレもあなたのことを応援しているよ」っていうふうに、日常の世界につながっていけたらいいなと思っています。絵本を読んで、「うちのおトイレにもおトイレさんいるかもな」って読者のみなさんに思ってもらえたらうれしいです。