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山田航さんが薦める新刊文庫3冊 “トンデモ”に驚き、笑う

山田航が薦める文庫この新刊!

  1. 『吉野弘詩集』 小池昌代編 岩波文庫 799円
  2. 『「日本スゴイ」のディストピア 戦時下自画自賛の系譜』 早川タダノリ著 朝日文庫 799円
  3. 『カルト資本主義 増補版』 斎藤貴男著 ちくま文庫 1026円

 (1)は2014年に逝去した詩人の全作品集。「祝婚歌」「I was born」「夕焼け」など、作者名は知らずとも誰もが一度は読んだことがあるような名詩が詰め込まれている。私も小学校の教科書で出会った「虹の足」が、初めて心揺さぶられた詩であったことをよく覚えている。人生を穏やかに説くような詩も悪くはないが、個人的には「記録」や「室内」のような、日常の中の微妙な気分になる瞬間をスケッチした散文的な詩がとりわけ好きだ。

 (2)は、満州事変をきっかけとして洪水のように出版された「日本礼賛本」の数々を、キレのいいツッコミを入れながら紹介してゆく本。昨今のテレビを席巻する「日本スゴイ」番組への皮肉として書かれた。「日本人は毛が薄いから西洋人より進化した人類だ」「世界方位の中心は宮城(皇居)であるべきだ」「日本兵が強いのは魚を食うからだ」など、トンデモ説のオンパレード。怒るよりも案ずるよりも、素直に笑わせていただくのが最も適切な本であると思う。

 (3)は1997年の初版に、現代の社会状況に合わせて加筆した増補版。日本の企業がオカルトや疑似科学に本気で投資し、カルトが日本のビジネスを動かそうとしている状況を取材した。ソニーの超能力研究、稲盛和夫や船井幸雄といった呪術的なカリスマ経営者、ヤマギシ会の組織作りに学ぼうとする大企業たちなど。カウンターカルチャーの顔をして現れながら市場原理を強化してゆく不気味な存在感は、一級のホラーのようだ。(歌人)=朝日新聞2019年4月27日掲載