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「戦後日本の道徳教育の成立」書評 教科ではなく「時間」になったわけ

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2019年05月11日
戦後日本の道徳教育の成立 修身科の廃止から「道徳」の特設まで 著者:佟 占新 出版社:六花出版 ジャンル:教育・学習参考書

ISBN: 9784866170770
発売⽇:
サイズ: 22cm/212p

戦後日本の道徳教育の成立 修身科の廃止から「道徳」の特設まで [著]佟占新

 本書の焦点は、1958年に「道徳の時間」が義務教育に特設されるまでの経緯にある。この主題は、従来は政治やイデオロギーの観点から説明されてきた。しかし著者は、教育方法や「道徳」観をめぐる対立にまで射程を広げる。また政治家の発言や審議会議事録だけでなく、民間教育団体の機関誌や新聞上の世論をも分析対象とする。
 50年代初め、当時の天野貞祐文相らは、系統的に愛国心等を教え込むべきとする教育方法観を掲げた。それに対し、すべての教科と具体的な生活経験を通じてのみ民主主義社会を生きる態度が養われるとする戦後の「全面主義道徳教育」観が堅持されたからこそ、道徳は教科ではなく「時間」という位置づけに留まった。
 それを「特別の教科」へと変更した直近の学習指導要領における大きな「無理」を、著者は指摘する。
 なお、中国から日本に留学し、困窮の中で研究を完遂した過程に触れた「あとがき」に胸を打たれた。