黒や朱塗りの漆器が並ぶ和食は程よく暗い部屋でいただきたいものだ。理由は『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』を読めばすぐ分かる。
均等に降りかかるLEDや蛍光灯はもちろん、白熱灯よりも「一層暗い燭台(しょくだい)」のゆらゆらした光の下(もと)で食器を見つめれば、「沼のような深さと厚みとを持ったつや」が浮き上がり、私たちを深みに迎えてくれるのである。味覚に旨(うま)みがあるように、視覚には深さと厚みを希求する本能のようなものがあると思う。
去年から雑誌の企画で毎月茶の湯の名品を訪ね、間近に見る機会を与えられた。引き受ける時にお願いしたのは器を手に持たせてもらえること、自然光で拝見できることであったが、二つが叶(かな)ったお蔭(かげ)で私にとっての発見が相次いでいる。
国宝「曜変天目」(静嘉堂文庫美術館)を見た日は薄曇りで、部屋には拡散する柔らかい光が射(さ)していた。丸いお椀(わん)の内側に半月のような影ができ、見る角度によって白や青、赤が千変万化の色彩を帯び、細かい斑紋に引き込まれるように下へ下へと深海に沈む錯覚を起こした。漆黒の空ではなく海底の深みへと星々は私を誘(いざな)うようであった。
バリアを取っ払ったようにフラットな光を好む現代の我々にとって「白くて綺麗(きれい)なビルだらけの街は、画用紙で作った模型のような偽物じみた光景」(村田沙耶香『コンビニ人間』)に見える瞬間があって疲れてしまう。
少し不透明な深い色合い、谷崎の言うところの羊羹(ようかん)がもつ「瞑想(めいそう)的」な「玉(ぎょく)のように半透明に曇った肌」。その色彩こそ「奥の方まで日の光りを吸い取っ」てくれる深くて甘い誘惑に満ちている。
白い紙は自(おの)ずと光を発し影を落とすことなんてないのに、大川裕弘が添えたカラー写真は曇天の鈍い反射や夜の静寂(しじま)、「灯に照らされた闇」の深い底までを浮き上がらせてくれる。本書は夕刻の窓際で、苦いお茶と冷やした水羊羹、でなければシングルモルトのスコッチといっしょにゆっくり味わいたい。
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パイ インターナショナル・2052円=4刷1万3千部。18年1月刊行。名作に写真を添えたビジュアルブック。照明や採光を学ぶ学生や外国人観光客ら幅広い層から反響がある。
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