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紗倉まなさん「AV女優の私が文章を書く理由」 新刊エッセイ「働くおっぱい」

文:伊藤あかり 写真:斉藤順子

――紗倉さんにとって「書くこと」の意味ってなんでしょう?

 思考の整理、みたいなことが大きいかもしれません。今は発表させていただく場所も多いので、そのおかげで考えるきっかけをいただいているような気持ちです。

 私は推敲しきれない会話という方法で物事を伝えるのが苦手なんです。なので大事なことはメールで伝えることも多いです。会話で伝えきれない、消化しきれない思いや違和感をメールで伝えることが「書くこと」の原点になっているのかもしれません。
そうすることで、思考が整理されていたんですよね。今のエッセイもその延長な気がします。

――エッセイも違和感や理不尽さに対して「なんでやねん」と突っ込んでいるものが多いような気がします。

 本当は幸せをシェアしていきたいんですけど、幸せよりも怒りや悲しみの方が目についてしまうんですよね。シェアハピは本業でしていきたいと思います……(笑)。

しみじみ考えて、爆発したように書く

――怒りや悲しみという、ネガティブな感情が発端にあるとおっしゃいましたが、紗倉さんの文章を読むと、誰も傷つけない表現まで昇華しているように思います。どのようなことを考えて文章を生み出しているのでしょうか?

 気になったことや、心の中にひっかかったことがあれば、スマホや手元にあるノートにメモしています。家に帰ってから、信頼している人たちに「こういうことがあって嫌な思いをしたんだけど、どっちが常識的だと思う?」と相談する。それで、もう一度しみじみ考えて、「この感情は間違っていない!」と確信が持てたら、散乱したテーブルの上をかき分けて、パソコンをだして爆発したように書いちゃいます。それから、整理するって感じですかね。

――言葉選びもそうですが、思考の深さにも引きつけられました。“セックスを露わにしている私という人間が、なぜか「恋愛」を公表できないという、そんな妙な状況”についての考察も大変興味深かったです。どうやってここまで思考を深めていらっしゃるのでしょうか?

 いやいや、全然そんなことないです。ただ、私めちゃめちゃ独り言を言うんですよ。「これってどうかな?」「いや、それはないでしょ」って。そうやって自問自答していくうちに、「あ、これも書いてみようかな」となります。無駄なことを考えてる時間がとても長い。

 私が極度の心配性ということも関係しているのかもしれません。母親がきれい好きなことも影響していて、昔は一度「手が汚い」と思い込んじゃうと2時間でもずーっと手を洗っちゃうようなところがありました。

 その延長で大人になり、例えば、「寝ている間に、SNSが乗っ取られて、男性器の画像が勝手に投稿される“なりすまし”にあって、それがバズって業界からほされたらどうしよう」という妙な妄想を膨らませては、それが怖くて何度もログイン画面を確認しまうこともあります(笑)。

 SNSを見ると、朝活して、仕事して……と効率良く時間を使えている方、いらっしゃるじゃないですか。すごくうらやましいんです。私なんかお昼の12時に起きて、なりすましの心配してログイン繰り返して、大したこともしないまま、もう夕方だよ!なんてこともあります(笑)。もう人間として終わっている……。ただ、その副産物として考えること・書くことができている……のでしょうか(笑)。

――このエッセイは「ダ・ヴィンチニュース」での連載を書籍化したもの。全14テーマの中で、特に「あえぎ声」についての記事がバズったそうです。“日本人女性の声は先進国でもとりわけ高いそうだ。”“記事に書いてあった(中略)「女性らしさを求められる→声が高くなる」、そして「日本独自の女性に求められてきた社会的価値観が影響しているという仮説(定説?)」”フェミニズムとエロについて語っているのが印象的でした。

 女性だから生きづらい、というよりは、私の場合は「私だから」生きづらいって感じですかねえ。先ほどもお話したように、1日の3分の2が「無駄」でできている「社会不適合者」。私の魂だったら、男性でも女性でも、生きにくいんじゃないかな(笑)。

 ただ、こういう仕事をしているからこそ、女性差別がダイレクトに届くこともあります。AV女優特有の偏見。男性器を受け入れる、挿入される側、受け皿としての差別用語を使われることが多いですね。「肉便器」とか。便器ってなんやねん、ですよ。受け止めるっていう言葉が、便器とリンクするんですかね。

 男優の場合は、加藤鷹さんのように「ゴールドフィンガー」「ヒーロー」として男性からは広く認知されていますが、女優の中に「神的存在」と思われる方っていないですよね。他人にセックスを見せる、という点では同じ事をしているのに、受け止められ方が男女で全然違うなと思います。

ミルフィーユ状に重なる偏見

――紗倉さんが思う「AV女優への偏見」というのはどういうものでしょうか?

 何層かあると思っています。ひとつはAV女優だから汚い、淫乱女、セックスが好きでしょうがない、あるいは借金まみれなんじゃないか、という圧倒的レッテル。もう一つは、体を売ってる女性だから、何を言ってもいいと思っている。「おっぱい何カップ?」などのセクハラ、下ネタをバンバン言っても、私が傷つかないと思っている、というもの。
最後は、人間として他人に裸を見せるなんて気持ち悪い。常識的ではない、というもの。

 これらの偏見が何層にも重なったミルフィーユになっているように感じます。分類して、切り取って、個々の層だけでも取り除けたらいいのになって思うんです。

 例えば、私が出演する番組を見たり、エッセイを読んだりした方に「意外と普通の人なんだな」と思ってもらえたら、最初の二つの偏見って変わるのかなって。ただ「人前で裸になるのは人として無理」という方たちを変えるのは難しいですし、違う価値観を強要するものでもないと考えています。

――文章を書くことの理由に「偏見をなくしたい」という思いもあるのでしょうか?

 一番の目的ではないですが、結果として、偏見を取り除けたらいいなと思うことは少しあります。すっぽんぽんでセックスしながら「これはかっこいい仕事だ」と言っても、説得力なんてないと思うんですよね。作品内でも自分の意見は言えない。そうなると、AV以外の場で自分の意志や考えを伝えていかなきゃいけないなと思っています。

 その方法が、SNSや写真など色々あるんだと思いますが、私は1人でたんたんと執念深く文字をこねくりまわすというのが、気質にあっていて一番やりやすかったんです。

――作品の中で、自分の考えにあわないものが出てきた時はどうされていますか?

 基本的に、物理的な意味で無理じゃない限りは、お仕事は断りません。心理的な意味でしんどいな、と思うものでも、とりあえず受け入れて、ありかなと思いながらやってみる。その結果、違うかなというものもありました。

 例えば、「輪姦クラブ」という作品の中で、強引に襲われて水をかけられる、というシーンがありました。事前に水の量は確認していたんですけど、いざかけられると、メンタル的にも結構くるなと。憑依するというか、作品内の自分とリンクして、終わった後にひどく落ち込みました。もし、この作品で、「抜いてハッピーになったよ」という方が多いのなら、頑張ろうかなと思ったんですけど、思ったほどファンの共感や好レビューを得られなかったんです。それなら、私がつらい思いをしてまで作る必要ないよなと思い、プロデューサーに相談しました。

 誰も傷つけない、不幸にならないものを、いつか一つでもいいから作りたい。男女がフラットで、会話と会話ができて見ている人も演じている人も傷つかない作品。刺激はないかもしれないけど、自分がこうありたいっていう純粋な気持ちを大事にできるような作品を作れたらいいな。

――先ほど、「作品内では自分の意見を言えない」とおっしゃっていましたが、作品内に「こうありたい」という思いを込めることは、難しいということでしょうか?

 私が断言してしまうことで、幻滅されるのは百も承知なのですが、AVはファンタジー。ファンタジーの中に、自分の意見が入るのは難しいのかなと思います。本当は作品内で自分の意見が言えたらかっこいいし、そういう女優になりたい。だけど、AVに出ている時は、どこかで雇用されている・自分という商品を使ってもらえている、という気持ちになってしまうんですよね。それは、女優としては本来かっこよくない道を歩んでいるのかもしれない。副業でしか自分の意見を言えないのはださいやり方なのかな、という思いもあります。

AV女優という肩書に甘えてもいるし、殺されてもいる

――書くことが本業になる、という可能性はありますか?

 それはないですね。書くことに自信がないです。だからといって、本業に自信があるわけじゃないんですけど。

 AV女優という肩書に甘えていることも、殺されていることもあるように感じています。AV女優の本だから読みたいという人も、だから読みたくないという人もいる。どちらにせよ、私はAV女優をやっていないと存在意義もないのかなと思っています。

――小説も「最低。」「凹凸」と2冊出されていますが、ご自身の中でエッセイと小説の違いは何でしょうか?

 エッセイは自分が主語になって、自分の中にあったことを事実に基づいて書いています。小説は、言葉が悪いですが、人を殺したり、誰かを傷つけたり、不謹慎なことも物語に交えてしまえば書けてしまう。エッセイは本当の気持ち、小説は本当に書きたかったこと、を書いているイメージです。それぞれの良さがあるので、テーマを選びつつ書いていけたらいいなと思います。

「好書好日」掲載記事から

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