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滝沢カレンの「大草原の小さな家」の一歩先へ

撮影:斎藤卓行

ヒュルヒュルヒュルー……。

強い風と共に朝はやってきた。
ここは、誰も近寄りはしない陰のある海岸沿いだ。
そこに一軒の古びた家がある。
イギリスのとんでもなく交通の便が悪い場所だ。
住みすぎて白かったはずの家はいつの間にか、おじさんが好きそうなグレーに変わってしまっていた。
今日もそんな活気のない家を追い詰めるかのように海潮と海砂が家に体当たりしてくる。

「ママ〜おはよう!!!」
誰よりも寝起きのいい早起き女の名前は、ローラ。 
ローラの家は5人暮らし。
母のライラ、父のドーイン、長女のミッコ、長男のグルグ、そしてローラだ。
ローラのウグイスのように高い声からこの一家の一日が始まる。
キッチンで鼻歌混じりのオペラを歌いながら愉快にも程がある母のライラが返事をする。

「あら〜!!!!! おはよう! ローラは相変わらずの早起きじゃない! いい夢が見られなかった証拠ね」
母のライラは若干のキツイ一言と共に、ローラに軽いキスをした。

鼻歌はローラも混じり更なる爆音が家中に響き渡り、いい夢を見ていた長男グルグを先頭に続々と起きてきた。
「おはよ〜。海で海底生物と友達になれそうだったのに。あとちょっとのとこで目覚めちゃった・・・・・・やっぱ夢か〜」

「あらあら、それは惜しかったわね。歌声で起こしちゃったかしら?(笑)」
母のライラは常に明るく優しい母親だった。
「子供たちよ、おはよう、ライラもおはよう。今日も海風がすごいなあ。だけどこの音とももうおさらばか・・・・・・」
父のドーインは、真面目で家族全員に優しくガタイもイカツイことが取り柄の父親だった。

「そうだね。うれしい気持ちとザワつく気持ちが織り交ざるわ・・・・・・」
ガタガタ窓に視線をそらし話し始めたのは、長女のミッコだ。
ミッコはまだ12歳だが、しっかり者で兄弟の面倒見がいいと両親から称えられていた。
「悲しみはあるけれど、新しい幕が開くと思ったらワクワクするじゃない!!」
母のライラは冒険心に溢れ切っている40代のため誰よりも喜んでいた。


そう、この一家は今日でこの家を出ていく。
家族みんなでコツコツとお金を貯めていつか大草原に建つ家に引っ越そう、それが家族の夢だったのだ。
そんな今日は、家族にとってはドキドキの出発日だ。
貧しい一家のため引っ越し手段も冒険さながらに徒歩だ。
もちろん住む家も決まっているわけじゃない為、この一家にしたら先のぼやける大冒険なのだ。

「おーい、みんな朝ごはんは食べたか? さっさと用意して、出発するぞ〜」
父ドーインの張り切る声が風の音に負けじと、小さな家中に響いた。
「さあ、みんな最後の挨拶をしていざ未来の扉を開けるわよ〜」
声からしてワクワクが漲る母ライラの声が最後の部屋に響く。

「いってきまーす!!!」
子供たちは元気よく、大声で家への最後を放った。
ついに一家は、長年共にしてきた海辺の家を出たのだ。
空は曖昧ながらも太陽を隠してばかりで、一家を悲しく送り出すようだった。

一家は持てるだけの荷物と、貯めてきたお金をもって草原を目指した。
音沙汰のない海辺での暮らしだったため、草原への道のりは一家は初めての体験だった。
「ママー!! 私疲れたわ・・・・・・そろそろ休憩しようよ」
「それもそうね、もう私たち14時間も連続で歩いてるわよ。いくらなんでも歩きすぎよ・・・・・・」

やる気がここぞとばかりに出た一家だったが、ローラはまだ6歳だったたため、長い道にさすがに疲れを表した。
ローラの一言で家族がひらめいたように一家は道の切れ間で休憩をとることにした。
「ああああああああ、疲れたな。座ってみると案外足の疲れがあったと気づくよ」
「ほんとにそうね。普段こんなに歩いたことないもんだから」
ガタイのイカツイ父ドーインが弱音を吐くくらいだから、それはそれは子供たちは歩き疲れただろう。

そんなたわいもない話で休憩していると、目の前から一体何十年生きているんだと尊敬したくなるような老婆がこちらに向かって歩いてくる。
ローラはいち早く見つけ、「ママ! あんなにもなにもない道からおばあちゃまが歩いてきてるわ。大丈夫なのかしら?」。
「あら、ほんとだわ。いくら寒くも暑くもないとは言え、こんな長い道を歩いてるのは心配ね」

髪が長いのか、老婆は髪をまとめていた。
グレーのワンピースのような服で体を覆っていて、小柄ながらも存在感は強かった。
顔は下を向いていてよく見えないが明らかにこちらにむかってきている。

すると老婆は、一家がいる目の前で足を止めた。
母のライラが声をかけた。
「おばあさま、いったいこんな道を一人で、どうしたんですか?」
「あなたたち家を探してるんだろ? わたしゃあんたたちの家を紹介してあげたいんだよ」

一家は驚いた。
一言もまだ家を探しているなんて言ってないのに一家は顔を合わせて驚いたが、老婆の存在感で声にならない不思議さがあった。

続けて老婆は話しはじめた。
「きっと気に入るよ」
少し笑ったような感情にも見えたが、相変わらずに下を向いてるため、感情が分からなかった。

「おばあちゃま、私たちにおうちを紹介してくれるの?? とっても嬉しいわ!! ありがとう。ね! ママいいわよね!?」
無邪気なローラは老婆に近寄り、探してくれる老婆にありがとうと伝えた。
「え、ええ! もちろん嬉しいわ! 本当にありがとうございます」
母のライラも好奇心に襲われていた人間だったため、笑顔で老婆を受け入れた。

一家で話し合う暇もなく、自然とその老婆についていく決心を不思議と一家はしていた。
「それはよかったわ。じゃあさっそく行きましょう」
相変わらずの下向き加減で声もややハキがなかった。

老婆が来た道を老婆を先頭に一家はついていった。
いつしか一本道から草原道に入った。
見渡す限り原っぱだ。
老婆に住みたい条件は言ってないはずなのにずんずんと草原を進んでいく老婆に一家は驚いた。

「ねぇ、あなた、私たち住みたい家の条件何にも言ってないわよね? なのにこんな草原道に連れてきてくれるなんて不思議なおばあちゃんよね」
母のライラは妙な察し能力に不安を得たように、旦那のドーインにコソコソ話しはじめた。
「だよなァ。僕も不思議に思ってたんだよ。僕たちが思い描いていた理想な草原に連れてきてくれるなんてなんか変だよなぁ。それにあのおばあちゃんなんか一人で話してないか?」

一家が老婆に目を移すと、確かに老婆は下向き加減が加速する勢いで下を向きながらボソボソ何か話し込んでいた。
誰かに話しかけているようだが、一家以外に人間は誰もいなかった為独り言だろうと誰も特に気にせず歩き続けた。
自然とさっきの疲れは消えて日が沈んでも一家は、グイグイ歩けた。

どのくらいの時間を歩いたのだろう・・・・・・。
4、5時間歩いたくらいの時だった。
一切振り返らなかった老婆が急に振り返った。
「あんたたち、着いたよ。あそこの家だよ。きっと気にいるよ」
こんなに休憩なしで歩いていたのに、おばあちゃんだというのに、振り返った老婆の声は変わらず落ち着いていた。

老婆が止まった先には、大きな一戸建てがポツンと建っていた。
「わァ、これがおばあちゃまが紹介したかったおうちなの?? お城みたいですごーーーい」
ローラが走りながら家に近づいて行った。

辺りはもう真っ暗だったため家の色など雰囲気すらよく分からず、シルエットだけが一家の前に立ちはだかっていた。
「ほんとねーーー!!! すごく素敵なおうちね!!!!」
母のライラも影でしか見れないながらもこの家をすごく気に入ったかのようにちかづいた。
他の家族もみんなこの家を一目で気に入ったようで、家に向かって走り出した。
「おおー!!! ほんとにいい家だなァ。僕らが夢見ていた家にピッタリじゃないか!!!!」

絵:岡田千晶
絵:岡田千晶

一家は老婆がここに連れてきた不思議なことより、こんないい家まで連れてきたことのほうしか考えられずに、一家みんなで、大喜びしていた。
「今日はここで寝ていいからね。ゆっくり休みなさい。じゃあわたしゃここで」
老婆が後ろから声をかけてきた。

一家が、やっと喜びのトキメキから冷静になり振り返ると、老婆はもう小さいくらいの背中がぼんやり見えてるくらいであっという間にいなくなってしまった。
一家は老婆の最後まで不思議な行動を少し気にかかりながらもこれから始まるここでの生活が幸せでたまらなかった。

「ママ、なんだか眠くなってきたわ。もう寝ましょう」
ローラがこれでもかと限界知らずの手でまぶたをこすり始めた。
「ほんとね。ママもなんだか急に眠くなって来ちゃったわ・・・・・・」
「パパもなんだか眠くなって来ちゃったよ。もう遅いし明日に向けてもう寝るか!!!!」
一家は、老婆がいなくなると一気に力をなくしたように睡魔に容赦なく襲われた。
この家でとりあえず持ってきた毛布と枕で寝ることにした。

朝が来るとローラは、頬に何かしらのくすぐったさと、強烈な太陽の勢いで目を覚ました。
「わーーーー!!! 何よここはー!!!!!」
そこには、昨日あんなに感動した家は欠片もなかった。
一家はただの大草原のど真ん中で寝ていたのだった。

「ママ! パパ!! おねえちゃん、お兄ちゃん! みんなみんな起きて!!!!!」
ローラの活発的な大声で一家はパチっと、目を覚ました。

「なんなんだ!? 一体ここはどこだ???」
「え? え? え? これは・・・・・・昨日のあの家はどこに行ってしまったの???」
父のドーインと、母のライラは驚きを越した。
そこに広がるのは見たこともない理想を遥かに越したキラキラとした、真みどりの大草原が広がっていた。

「あの老婆に案内されて、ここに家があったのは夢なんかじゃないよな・・・・・・?」
父のドーインは記憶を逆戻ししながら考えていた。
確かにここに昨日の夜中、家はあったはずだ。
だが目を覚ますと家は丸ごとなくなっていた。
なくなっていたというより、もともとなかったかのようにそこには大草原が広がっていた。

一家は老婆を探そうと、歩いてきた道などを探すがただひたすら草原道しかなかった。
一家揃って幻を見たのかという気持ちになっていた時だった。

「ママ! ここに、なんか書いてあるわ!!!」
好奇心たっぷりなローラが見つけたのは大きな大木がある根元だった。
そこには、いつからあるのか計算できないほどの古びて茶色くなっている、紙がおいてあった。
母のライラに紙を渡すと、そこには、宝の地図のようなものが書いてあった。
【ここから西に60歩の場所を掘りなさい。お宝あり】と記されてあった。
「こんなの誰かの落書きに過ぎないだろうけどおもしろそうだしやってみましょうか!」
母のライラはワクワクした顔つきで地図を見入っていた。

大木から、西に60歩歩いた場所はちょうど昨日老婆が案内してくれた家があった場所だった。
一家全員で無我夢中でそこを掘ってみることにした。

「ライラ、この固いツノのようなものはなんだろう??」
最初に不思議なものを発見したのは、父のドーインだった。
「あら、何かしら? 固い骨のようにも見えるわね。これがもしやお宝だったりして・・・・・・!」
「まさかこんなすぐには見つからないだろう〜」
そんな夫婦で、笑い話程度に掘っていったのだったが、何か決定的なものに当たったことに気がつく。

「あ、あ、あなた・・・・・・!!!!!! これってマンモスよ、ね・・・・・・」
「あ、あぁ。こ、こ、これは・・・・・・間違いなくマンモスの化石だ・・・・・・」
「え・・・・・・」
「うそでしょ、わたし教科書でしか見たことないよ・・・・・・」
「僕も・・・・・・」

子供たちが声をそろえて驚くことしかできなかった。
なんと家があった場所がお宝のありかであり、そこに眠っていたのは、マンモスの化石だったのだ。
一家はとんでもない貴重なお宝を掘りあてたのだ。

「ママ、私のお婆ちゃんって確か動物の研究をしていなかった?」
すると、母のライラと父のドーインは顔を氷で冷やされたかのように固まった。
「確かに、ローラのお婆ちゃんは研究者だったわ・・・・・・」
「あぁ・・・・・・」
「だけど、あれはローラのお婆ちゃんじゃないわ・・・・・・。確かに妙な安心感はあったけど」
「ライラ、海辺の家を売ってくれたあのおばさんは確か・・・・・・」
「えぇ、あなたそうよ。マンモスの化石が埋まっている場所があるから、探してほしいって亡くなるギリギリまで私たちのお願いしてきてたわよね」
「僕は冗談だとずっと思っていつも笑っていたよ」
「えぇ私も、愉快なおばさんだなぁってだけで、全然信じてあげれなかったわ」

昨日まで住んでいた海辺の家は、まだローラたちが生まれる前にドーインとライラで必死に探したお気に入りの家だった。
だがその家には、一人の老婆が住んでいた。
老婆は足腰を悪くしてしまい、病院生活が始まることになり家をちょうど売りたかった。
ドーインとライラは迷わず購入意欲を正面から出した。
老婆もとても喜んでいた。

老婆の病院生活が始まると、ドーインとライラは度々お見舞いに行き三人はたちまち仲良くなった。
だが、仲良くなり始めた時、ライラは妊娠が発覚し、老婆は健気な体力もたちまちなくなり、衰退していってしまい、三人でのお喋り時間は減っていった。


そんな息を辞めてしまうギリギリまで老婆は、ずっとドーインとライラに訴えていたことが、『自分はマンモスの化石が埋まっている場所を知っている』という話ばかり。
「わたしゃもうこんな体じゃとてもじゃないけど見つけにいけないから、どうか二人が私の代わりにマンモスの化石を見つけてやってくれ。お願いだよ。わたしゃ何十年もマンモスに対する研究と、化石発掘への道を走ってきたんだが、結局マンモスを発掘できなないまま居なくなってしまいそうじゃ。私の夢を二人が叶えておくれ。私がマンモスの化石がいる地図を書いてやるから、明日また来てくれ」

三人が会話したのはこれが最後の会話となった。

ドーインとライラは、まさかほんとうの話じゃないだろうと、夢心が溢れる二人の割には、信じていなかった。
地図を受け取れずに、遠くの世界へ飛び立った老婆が少し気にかかっていたが、ライラの妊婦生活や出産などの忙しさの波で、その記憶は薄れていった。
地図を渡せずに、遠くの世界へ飛び立った老婆は良くしてくれたドーインとライラの元に再び現れ、互いの夢を叶えてほしかったのだ。

ドーインとライラは、確信した。
二人の頬には、熱い水滴がとことん流れていった。
貧しくお金を握りしめてあてのない家探しをしている心優しい一家の前に現れたのは、夢を現実に残していた妖精のような老婆だったのだ。

マンモスの化石を発見したとしてローラの一家は有名になり、考えられないくらいの大金をもらった。
イギリスの都会の一等地を買えるくらいだったが、昔から一家で叶えたかった夢通りに、そして一家が疲れ果てていた時に力になってくれた感謝しきれない老婆との縁を大切にしたいと思い、老婆が案内してくれた、あの大草原がキラキラなびく場所に決めたのだ。

ドーインとライラは、導いてくれた老婆の感情を受け止め大切にしていこうと誓った。
幻のように見えた、あの日一目ぼれした家に似た小さな家を建てたのだった。

そしてかわいらしい一軒の家はいつまでも明るく幸せに暮らすのだった。
まるで老婆が満面の笑みで空から笑っているように。

(編集部より)本当はこんな物語です!

 6歳の少女ローラは、父と母、姉と妹の5人家族。アメリカ中西部の「大きな森」から、広々とした大草原に新しい土地を求め、幌馬車で旅立ちます。いくつもの州をまたぎ、たどりついたのは何もない土地。自然の驚異、野生動物の襲来、先住民との確執など、様々な困難が立ちはだかるなか、一家が一から新しい家を作っていく過程が、ローラの目を通して描かれます。カレンさん版と同様、好奇心いっぱいで感情豊かなローラの姿は、日本では1970~80年代にかけてNHKで放送された米ドラマでもおなじみですね。

 「大草原の小さな家」は筆者ローラ・インガルス・ワイルダーが19世紀アメリカの大開拓時代を舞台に、自身の経験をそのまま物語にした大河小説のごく一部でしかありません。彼女は、ローラの少女時代から、結婚し、娘を産み、家族から独立するまでを9冊の本にしています。カレンさん版では、謎の老婆に導かれて思わぬ「宝物」を手にするローラですが、原作の少女もまた、人生の節目節目で多くの「宝物」を手にしていきます。