地下鉄サリンをはじめとする、オウム真理教による一連の事件は、その動機をめぐって様々な議論がなされてきた。先史学という一見畑違いの研究から迫った『考古学が解く混迷の現代 オウム事件の本質』(勉誠出版)が出版された。
著者は、考古学者の竹岡俊樹・共立女子大非常勤講師。2000年に発覚した旧石器捏造(ねつぞう)事件の際、発見の矛盾点を早くから指摘したことで知られる。
本書は、オウム真理教についての概説書にもなっているが、読みどころは先史学・考古学の理論から同教に迫ろうとした最終章だろう。
竹岡さんは旧石器研究の専門家の立場から、250万年前に始まった石器作りという行為を通して、人にはまず、石器の複雑な製作工程を一貫して指揮する「ワタシ」が生まれた。さらに石を割るといった働きかけの結果として、そこから、分析対象となる「自分」が分裂したと考える。
その結果、イメージや感性によって象徴的世界(宗教的世界)をつかさどる右脳と、言語と論理で科学技術的世界をつかさどる左脳が創出され、人はその二つの世界をめぐる乖離(かいり)と矛盾に悩むことになった。
竹岡さんによると、人は左脳的事象は冷静に判断できるが、宗教などの右脳的事象は「それが意味づけ価値づけられてしまえば(略)是非を判断することは不可能になってしまう」。こうした性質を利用したのがオウム真理教だったと結論づける。
「先史学・考古学の人間観を基礎として、民俗学・日本史学の資料を用いて分析すれば、現代の私たちが直面する問題を解くことができる」と竹岡さんは説く。(編集委員・宮代栄一)=朝日新聞2019年5月22日掲載
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