1. HOME
  2. コラム
  3. マンガ今昔物語
  4. 血まみれの女王、登場! 「卑弥呼-真説・邪馬台国伝-」(第102回)

血まみれの女王、登場! 「卑弥呼-真説・邪馬台国伝-」(第102回)

 30年ぶりの天皇即位を記念して、今回は「この国のはじまり」を考える作品を紹介しよう。昨年から「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で連載されている話題作『卑弥呼-真説・邪馬台国伝-』(リチャード・ウー/ 中村真理子)だ。ちなみに原作者のリチャード・ウーとは、元「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)編集長で浦沢直樹の盟友としても知られる長崎尚志のペンネームのひとつ。この名前で『クロコーチ』(画・コウノコウジ)や『アブラカダブラ』(画・芳崎せいむ)などを発表している。

 ご存じの通り、邪馬台国は3世紀に書かれた「魏志倭人伝」に登場する国であり、卑弥呼はその女王だった。マンガでは、例えば1990年に漫画家協会賞優秀賞を受賞した『ナムジ-大國主-』(安彦良和)にヒミコ(日霊女)と邪馬台国が出てくる。この作品によると、邪馬台国はもともと北九州にあったが、2世紀にスサノオ率いる出雲軍の侵攻によって南九州に南下。その後、ヒミコは神占としてスサノオと交わり、3人の女の子を産む。このエピソードは「古事記」を下敷きにしたもので、つまり安彦良和はしばしば耳にする「卑弥呼=アマテラス(天照大御神)」説を採用していた。一方、『卑弥呼-真説・邪馬台国伝-』ではまったく異なる卑弥呼像が描かれる。

 倭国大乱の3世紀、戦によって孤児となったヒムカ(日向、現宮崎県)の少女ヤノハは「クマ(暈)の国」の日の巫女集団に拾われ、戦士として訓練を受ける。やがてその実力を買われて戦場に送られそうになるが、並外れた生への執着を持つヤノハは謀略と殺人を重ね、安全なイノリベ(祈祷部)への異動に成功。しかしイノリベの長・ヒルメに真相を見抜かれ、生還の可能性が限りなくゼロに近い魔の洞窟へと送られるのだった!
 ヤノハはやがて卑弥呼になるのだと予想されるが、自分が生き残るためなら人をだますことも友を殺すこともいとわない。弁解の余地のない悪女であり、とても主人公とは思えない冷徹な鬼畜ぶりに驚かされる。

 冒頭のシーンが単行本第1集のラストにつながる構成も鮮やかだし、「魏志倭人伝」の記述をもとに描かれる「3世紀の九州」の様子も説得力がある。一見、『ナムジ』と同じく「邪馬台国九州説」を取っているように見えるが、クマの国には王の補佐役としてククチヒコ(鞠智彦、狗古智卑狗)という人物がいることから、クマ国は後に邪馬台国と敵対するクナ(狗奴)国ではないだろうか。第1集の時点で邪馬台国は生まれておらず、畿内か九州かの結論は出ていない。また、クマ国では100年以上前からアマテラスが信仰されていることも示唆され、卑弥呼とアマテラスのキャラクターは重ならない。
 孤児だったヤノハがどのような権謀術数を使って「卑弥呼」へと成り上がるのか? 邪馬台国はどこにできるのか? 物語はまだ始まったばかりだ。