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歴史文脈踏まえ反省も批判も 水野和夫・山口二郎「資本主義と民主主義の終焉」

 戦後長らく先進国世界の規範となってきた民主主義と資本主義。その欠点が世界中であらわになっている。本書は、漠然と不安を抱く読者ニーズにまっこうからこたえる主題を掲げる。

 それにしても類書はごまんとあるのに、すぐ増刷がかかったのには、おそらく別の理由もある。推測するに、著者2人の組み合わせの妙もありそうだ。

 経済史を巨視的にとらえる経済学者の水野。リベラルな立場から現実政治に関与しつづける政治学者の山口。それぞれに多くのファンがついているが、共通することがある。民主党政権の政策ブレーンだったことだ。

 民主党政権の挫折は、政権交代を願って同党を支持した多くの国民をひどく失望させた。その後遺症から、野党はいま長期低迷を余儀なくされている。

 非自民政権で社会民主主義を実現するという挑戦に敗れた2人は、その反省もふまえ、本書で平成の出来事を歴史の文脈のなかに改めて位置づけていく。

 政治家たちのあけすけな評価もしている。旧民主党の首脳らにも辛辣(しんらつ)だ。とはいえ、やはり底流にあるのは、歴史の転換を認めず復古的なスローガンを掲げる安倍政権への批判である。

 水野は政権が掲げるGDP目標と企業利益増の奨励策を読み解き「アベノミクスが続くかぎり、賃金は上がらない」と分析。山口は「自民党は野党に転落して以来、右傾化」したといい、安全保障で「日本はアメリカの属国状態のまま」と指摘する。

 ここ数年の朝日新聞の世論調査から読み取れるのは、安倍政権のコア支持層、アンチ層がそれぞれ2割ほどいること、残り6割の中間層が支持と不支持の間を揺れ動いていることだ。

 昨今、メディアの政権寄りの論調が目立つと言われる。政権支持の保守論客による歴史書が超ベストセラーにもなった。こんな言論状況では、無党派層に的確な判断材料は届きにくい。

 本当に「民主主義の終焉(しゅうえん)」にさせないためにも、本書のようなアンチ本のヒットは朗報だ。

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 祥伝社新書・907円=2刷3万部。5月刊行。担当編集者によると発売前から引きが強く、初版部数を引き上げたという。最終章「これからの10年」への反響が特に大きいそうだ。=朝日新聞2019年6月22日掲載