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「影ある文明」に魅了され 鶴岡真弓さん「ケルトの魂 アイルランドから日本へ」

鶴岡真弓・多摩美術大教授

 大自然を感じさせるアイルランドの音楽家エンヤの楽曲、大ヒット映画「タイタニック」で使われたダンス曲、近年盛り上がりを見せている行事ハロウィーンと、ケルト文化の影響はいつの間にか私たちの周りに溶け込んでいる。ローマ人が勢力を拡大する以前の欧州北部に広がっていたケルト文化研究の第一人者と言えば著者をおいて他にはいない。

 著者とケルトの出会いの物語は、小中学生の時の「直感」にまでさかのぼる。「高度成長期、大人たちがこぞって大国アメリカに明るい未来を見ていた反動から、私はユーラシア大陸の様々な民族の人たちを『隣人』だと感じ、影のある方に目を向けたいと思った」と言う。

 行動力もすごい。19歳の時、大陸を自分の目で見てみようとソ連船で横浜港からナホトカに渡り、シベリア鉄道で大陸を横断、スペイン南端から北アフリカまで約1万キロの旅をした。「その頃、私の心は『LOVEユーラシア大陸』で、あわよくば自分も遊牧民に交じって暮らしたいと、フラメンコを習っていました」と振り返る。

 大学では西洋美術史を専攻していたが、ルネサンスや印象派ではなく「影のある文明」ケルトにひかれたのは自然の流れだったのだろう。「ケルトの渦巻き文様は、生・死・再生と生命の循環的思考を象徴していますが、欧米の合理的、垂直的思考ではない人たちが欧州の片隅にいるんだ」と研究に夢中になった。

 本書では40年以上の研究をもとに、歌手や俳優、研究者ら16人と対談し、ケルト文化と日本文化の似通った点などをあぶり出している。「ユーラシア大陸をはさんで東と西の極みにある日本とケルトは合わせ鏡の関係にあることが見えてくる」。それにちなんだ展覧会が多摩美術大学で開催中(7月14日まで)だ。(文・久田貴志子 写真・篠田英美)=朝日新聞2019年6月29日掲載