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雁須磨子「あした死ぬには、」 40代の女性の心身の変調、リアルに

 不穏だけど能動的。咄嗟(とっさ)に「ならば、パソコンの整理はしておきたい」などと考えてしまう“自分ごと感”もある。引き寄せられるタイトルだ。
 映画宣伝会社に勤める本奈多子(ほんなさわこ)、42歳。関係各所の調整に同僚のフォローと激務をこなし、独り暮らしのマンションへ。その夜、激しい動悸(どうき)の後、身体が冷たくなって……。
 本作には女性が抱える切実な悩みがモグラ叩(たた)きの勢いで立ち現れる。心身の変調、老後のお金、働き方の変化etc。積みあげてきたはずの知識や経験も揺らぎ、急に悲観的になったり、短気になったり。
 一方、大学生の娘を持つ小宮塔子は夫の単身赴任を機にパートを始め、自分の身をもって年を重ねたことを実感していた。そんな時、思い出すのは同級生の多子のこと。
 対極的ではあるが、どこか満たされない想いを抱えた2人の日常がリアルで引き込まれる。まだ社会にかたどられる前に出会った2人。今後、どんな影響を与え合うのか興味は尽きない。
 文字にするとシリアスだが、著者ならではのユーモアが物語に軽みを与えている。人はそれぞれ自分にしか味わえない人生を歩んでいる。その事実を肯定してくれる柔らかな力強さが本作にはある。=朝日新聞2019年7月6日掲載