家の近くに酒屋さんがあって、前掛け姿のおじいさんが1人で切り盛りしていた。“昭和”な店のたたずまいが気に入り、なるべく酒類はその店で買うようにしていたのだが、先日行ったら、店は跡形もなく、更地になっていた。
寂しい思いでいるときに『看板建築 昭和の商店と暮らし』(萩野正和監修)に出会った。看板建築とは、昭和初期の関東大震災復興時に東京で数多く建てられ、全国に広がった商店建築。正面部分を一枚の看板のように装飾したのが特徴で、注目もされずに埋もれていたのを、建築史家の藤森照信氏らが「看板建築」と名付けたという。昭和を今に伝える「文化」でもある。あの酒屋さんも看板建築だったに違いない。
看板建築で喫茶店を営むある店主は「きれいなお店はお金をかければできるけど、歴史は積み重ねだから」と言う。引退後について「もうあとはないです」とも。
あなたの町の周りにもきっとある看板建築。なくなってから、いっそう、その存在の価値に気づかされる。(久田貴志子)=朝日新聞2019年7月6日掲載
編集部一押し!
-
文芸時評 生成AIの民主化と新たな言語環境、2025年の文芸を振り返る 朝日×毎日「文芸時評」筆者対談 朝日新聞文化部
-
-
新作ドラマ、もっと楽しむ ドラマ「人間標本」主演・西島秀俊さん×原作・湊かなえさん 子を手にかけた親の奥底「日本独特の感性」で 根津香菜子
-
-
朝宮運河のホラーワールド渉猟 織守きょうやさん「あーあ。織守きょうや自業自得短編集」インタビュー 他人事ではない怖さに包まれる 朝宮運河
-
杉江松恋「日出る処のニューヒット」 宮島未奈「成瀬は都を駆け抜ける」 最強の短篇作家の技巧を味わう(第33回) 杉江松恋
-
インタビュー 彬子さまエッセイ集「飼い犬に腹を噛まれる」インタビュー 導かれるまま、ふわりふわり「文章自体が寄り道」 吉川明子
-
オーサー・ビジット 教室編 情報の海に潜む罠 感じて、立ち止まって、問いかけて 国際ジャーナリスト堤未果さん@徳島県立城東高校 中津海麻子
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】大迫力のアクション×国際謀略エンターテインメント! 砂川文次さん「ブレイクダウン」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り PR by 三省堂
-
イベント 戦後80年『スガモプリズン――占領下の「異空間」』 刊行記念トークイベント「誰が、どうやって、戦争の責任をとったのか?――スガモの跡地で考える」8/25開催 PR by 岩波書店
-
インタビュー 「無気力探偵」楠谷佑さん×若林踏さんミステリ小説対談 こだわりは「犯人を絞り込むロジック」 PR by マイナビ出版