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萩野正和「看板建築」 昭和を伝える「看板建築」を歩く

  家の近くに酒屋さんがあって、前掛け姿のおじいさんが1人で切り盛りしていた。“昭和”な店のたたずまいが気に入り、なるべく酒類はその店で買うようにしていたのだが、先日行ったら、店は跡形もなく、更地になっていた。
 寂しい思いでいるときに『看板建築 昭和の商店と暮らし』(萩野正和監修)に出会った。看板建築とは、昭和初期の関東大震災復興時に東京で数多く建てられ、全国に広がった商店建築。正面部分を一枚の看板のように装飾したのが特徴で、注目もされずに埋もれていたのを、建築史家の藤森照信氏らが「看板建築」と名付けたという。昭和を今に伝える「文化」でもある。あの酒屋さんも看板建築だったに違いない。
 看板建築で喫茶店を営むある店主は「きれいなお店はお金をかければできるけど、歴史は積み重ねだから」と言う。引退後について「もうあとはないです」とも。
 あなたの町の周りにもきっとある看板建築。なくなってから、いっそう、その存在の価値に気づかされる。(久田貴志子)=朝日新聞2019年7月6日掲載