「三人の逞しい女」書評 困難抱えた人たち 奥深く描く
ISBN: 9784152093134
発売⽇: 2019/05/23
サイズ: 20cm/339p
三人の逞しい女 [著]マリー・ンディアイ
噂の作家マリー・ンディアイの新刊『三人の逞(たくま)しい女』を読んだ。題名通り三部に連なった小説である。
まずノラという女性が出てくる。複雑な思いを抱いたまま、長く会っていなかった父の家を訪ねざるを得ないノラは、庭に植えられた鳳凰(ほうおう)木(熱帯で花を咲かせる植物)から父が落ちて現れたように感じる。
その場面ひとつで胸の奥がつかまれて、この小説と共に時間を過ごそうと思う。象徴的な植物、ラテンアメリカ文学のような魔術的なテイスト、そして娘と父の軋轢の物語。
ちなみにその父は「結婚をくり返し」「極貧から抜け出して一財産築い」たのち、人生の暗闇の領域に足を踏み入れており、別の国で弁護士になったノラに何かの助けを求めている。
中上健次が作り上げた路地のような世界が、この父親の背後に広がっていると思えてくれば、果たして本作がどこの国の話かわからなくなる。それがアフロフレンチでもありながら出自を語られることを好まない作者の本意でもあろう。
さて第二部は悔恨にとりつかれたルディという男と冷え切った妻ファンタの話、第三部はカディという難民女性の過酷な話になるのだが、どれもどこかで第一部の世界と結んでいる。
がしかし、サーガ(物語群)にありがちな冗漫な説明は一切なく、小説自体がきわめてよく削られ、それでいて心理と事実の描きようが奥深く豊かで何行か読み終える度に、ああとため息が出たり、書かれた言葉の裏側にある意味をじっと考えたりすることになる。
どの部にも困難を抱えた人間たちが出てくる。ある者は弱く折れやすく、ある者はむごい環境に耐えるために実感を捨てて強く生きるしかない。それら登場人物たちの誰が真に「逞しい」と思うかは読む者の今に関係するのではないか。
ともかく、並の小説とは格が違う。描写も筋の運びも図抜けている。とんでもない作家を読まずにいた。
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Marie NDiaye 1967年生まれ。仏の小説家、劇作家。本書でゴンクール賞。『ロジー・カルプ』など。