本書はAIや5Gなど先端技術を巡る、アメリカと中国の覇権争いを描く。
中でも興味深いのは序章の自動運転開発最前線。中国・深圳のベンチャー企業に記者が密着取材した。社員平均年齢が28歳の新興企業が、政府系投資会社などから約120億円を調達し、創業から1年で「レベル4」と呼ばれる世界最高ランクに達する。
急成長を可能にしたのが「海亀(ハイグェイ)」と呼ばれる米国帰りの技術者たち。グーグルやテスラなどで経験を積んだ優秀な人材だが、背景には彼らの帰国を促し国内の発展に活(い)かそうとする中国の政策がある。記者は「アメリカで獲得した知的財産を盗み、活用しているのではないか」と疑うが、それは米国政府も同じだ。
このベンチャー企業にある日、まさかの事態が発生する。共同創業者の主導権争いで社内が分裂し、投資家が会社資産を凍結。資金がショートして同社は潰れてしまう。
脆弱(ぜいじゃく)な一面も覗(のぞ)かせる中国企業の実力を推し量るのは難しいが、米政権は「アメリカは、技術的な優位性を失い中国との戦いに敗れるかもしれない」とする報告書を公表。激しい貿易戦争の底流には、疑心暗鬼に陥った米国の過剰反応があるのかもしれない。=朝日新聞2019年7月20日掲載
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