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フルポン村上の俳句修行 蓮見舟の吟行句会で、空と最高点をつかむ

文:加藤千絵、写真:樋口涼

 7月9日午前10時、JR我孫子駅に降り立った村上さん。この日の目的は、千葉県の手賀沼で「蓮見舟」に乗ること。蓮見舟とはその名の通り、蓮が間近に見られるように群生地まで運行している舟のことです。案内役を務めてくれるのは、日本伝統俳句協会が主催する「卯浪(うなみ)俳句教室」柏教室の講師・田丸千種さん。「(お笑い番組の)爆笑レッドシアターからのファンで、まさか俳句をされるとは!」と歓迎してくれました。

田丸千種さん

 「卯浪俳句教室」は主に若い俳句人口を増やそうと、14年前に始まった初心者向けの教室です。頭の中で考えず、自然から刺激や感動を得て俳句を作る「吟行」を中心にしていて、柏教室は現在、田丸さんを入れて17人。この14年間、ほぼメンバーの入れ替わりはないそうで「外に出てスッキリ感があるから、みんな続いてるんじゃないかなって思う。みんなで集まって、外を歩いて、俳句を作って、句会してっていう、そのひとまとまりがクセになるんじゃないかしらね」と田丸さんは笑顔で話します。

 この日は同じく卯浪俳句教室の横浜教室と原宿教室も加わっての合同句会でした。平日ということもあって、子育てが一段落した主婦の参加が多く、横浜教室を主宰する小川みゆきさんは「年を取って動けなくなってもできる俳句を一生の趣味として育ててほしい。自分の心を平静に保てるように、楽しみが見つけられるように、俳句を生きる力としてほしいと思っています」との願いを語ってくれました。

小川みゆきさん

 我孫子駅から10分ほど歩くと、手賀沼が見えてきます。沼のほとりはかつて、柳宗悦や志賀直哉、武者小路実篤ら文人が暮らし、季節ごとにさまざまな野鳥が飛来する風光明媚な場所。舟の出航まで時間があったので、各自ぶらぶらしながら俳句のネタを探すことにしました。ギリギリ雨は降っていないものの、空はどんよりとして肌寒く、「梅雨空」「梅雨曇(つゆぐもり)」「梅雨寒(つゆさむ)」などの季語がぴったりの天気。沼に目を向ければ、アメンボや白鳥の親子が泳いでいたり、寂しげなスワンボートが浮いていたりと、題材はいろいろとありそうです。「自然ってむずかしいですよね。多少人間が作ったものがあった方が、着眼点を変えるって時にはいいんですよね・・・・・・」とつぶやきつつ、村上さんも沼の周囲を巡ります。

 出航時間の11時、10人も乗ればいっぱいの蓮見舟に背中合わせで座り、蓮の群生地を目指しました。

手賀沼は浅い沼で、深さは約80センチ。杭が立っているところは最も深く2~3メートルあり、冬場、水底に集まってくる魚の釣り場になる。留まっている川鵜は魚を狙っている

 手賀大橋を越えると、見えてきたのは背が低くてまばらな、若干さみしい蓮田・・・・・・。船頭さんいわく「去年は6月の終わりから花が咲いていたけど、今年はカーッと暑い日がなかった」ので、まだ蓮が育っていないそう。例年だと舟の屋根を越すほどの背丈で、ジャングルの中を分け入っていくような景色とのことで、これには田丸さんも「蓮がないなんて思いもしなかった・・・・・・」とガッカリした様子でした。

 目当ての蓮の花は3輪のみ。「ジャングルの蓮原を見てほしかったので、ものすごく申し訳ないなって感じ」と言う田丸さんに、「舟に乗れてよかったですよ。ジャングルもそれはそれで楽しそうですけどね」と村上さん。「この前も(埼玉の)長瀞のライン下りに乗ったんですけど、僕、単純に水を見てるのが好きかもしれない」。原宿教室の講師・今井肖子さんも「美しい花がいっぱい咲いてたりすると、逆に(句作が)むずかしくなることもありますから」と励まし、みな気を取り直して「蓮原(はちすはら)」「蓮浮葉」「蓮見舟」「舟遊(ふなあそび)」といった季語で句を作っていきます。

帰路にはおどけたようなポーズの河童の像も

 エンジン音を響かせ、風を切って走る舟に1時間乗り、いよいよ冷えてしまった体を昼食のカレーそばで温めて、午後2時から句会に臨みます。村上さんが提出したのは以下の7句でした。(原文ママ)

・自販機のモーター音消え水馬(あめんぼう)
・梅雨寒の沼より尾びれ出でし音
・ヒメシバのはみ出るベンチ昼寝人
・四体の河童像一羽の河鵜
・空掴むごと裏返る風の蓮
・レンズ向ければ羽閉じる河鵜かな
・真白し蓮の雫は銀色に

 句会に参加したのは総勢30人。それぞれ無記名で7句ずつ提出した計210句を見渡し、いいと思った7句を選び出して、それを講師の田丸さん、小川さん、今井さんの3人が代表して読み上げます。講師のみ、入選句のほかに特選10句を選び講評しました。この日、田丸さんの特選を含む最も多い9人の選を集めたのは、なんと村上さんの句でした。

空掴むごと裏返る風の蓮 健志

田丸:お上手ですね~。「空掴む」っていう措辞ですよね、それで成功してる。これは「そら掴む」ではなく「くう掴む」ですよね?
村上:ちょっと、どっちでも・・・・・・。
一同:(笑)
田丸:みんなが今日、(風に)裏返る蓮を見たんですけど、ただ裏返るだけじゃなくて裏返り方が空(くう)を掴む、っていうそこをとらえたところで、なかなか斬新な句になりました。

 9点句はもうひとつ、八木たみ女さんの「(は)しきもの遠くにありと蓮見舟」もありました。続く8点句は久米孝子さんの「エンジン音止みて蓮田の寂として」ほか以下の2句でした。

羽脱鳥ものうき首を沼へ差し 千種

今井:「羽脱鳥(はぬけどり=6月ごろに羽の抜け替わる鳥類)」はむずかしくてなかなか作れないんですけど、お二人くらい作っていらしたのできっとご覧になったと思うんですけど、「沼へ差し」が首のヌケヌケ感みたいなのがちょっとわびしくていいなと思いました。

紅蓮に巧みに寄せる棹捌き 斉藤久野

小川:今日は花が3つしかなくって、一生懸命船頭さんがそれを見せようと思って寄せてくれて。本当に棹捌きっていうか、小さな舟に10人も乗せて命を預かるわけですから、舟の操りは上手かなと思いました。

 7点を取った村田五百代さんの句は、うち2点が講師の特選でした。

梅雨寒やしよぼくれていく沼一枚 五百代

田丸:「しよぼくれていく」って普通は言えない。沼がしょぼくれていくみたいな大変言いにくいことを、思い切って言った。ちょっと今日、蓮もしょぼかったですよね。蓮も沼全体も、私たちが知ってる手賀沼の蓮田から思えばずいぶんしょぼくれていたんですけど、それをハッキリ言ったところがよくやった、みたいな感じになりました。

小川:「しよぼくれて」って言葉が今日の沼の様子をよく表しているんじゃないかなと思って、よく言った言葉と思いましたね。

 6点句は松本住江さん「舟床の背中合せや夏座蒲団」、たみ女さん「蓮沼に蓮の花見ぬ淋しさよ」「分け入るといふこともなく蓮見舟」、駒井ゆきこさん「悠々と漂うてゐる蓮時間」「裏返る蓮の葉風の号令に」のほか、村上さんの句が今井さんの特選になりました。

梅雨寒の沼より尾びれ出でし音 健志

今井:沼から何か跳ねましたっていうのを、具体的に「尾びれ出でし音」って言うと瞬間の感じが出るなと思いました。ちゃぽん、みたいな感じがいいなと思いました。

 村上さんの句はほかに「自販機のモーター音消え水馬」「レンズ向ければ羽閉じる河鵜かな」がそれぞれ2点句になりました。この日は俳句はもちろんのこと、選句もすばらしかったようで――。

千種:ものすごくいい選で、講師3人の句を一人ずつちゃんと取ってて(※)、なんて空気が読める! すばらしいですね!(笑) 最後にせっかくですから、今日のご感想でも句をほめていただいても、どんなことでも結構ですので一言お願いします。

※無記名で選んだ7句のうち3句が「蓮沼の復路真つ直ぐ真つ平ら みゆき」「蓮沼に蓮育つ夜をかさねゆく 肖子」「梅雨の鵜の乗るや捨舟ちよと揺るる 千種」でした

村上:吟行をするのは2回目で、しかも場所指定でウロウロならまだアレですけど、ツアー的にみんな同じところに行くと、なかなか人と違うところを見つけるっていうのはむずかしいとは思いました。でも、その中でみんな葉の裏返り方とか、花が少ししか咲いてないことに対する表現とかがあんなにあるんだな、と思って勉強になりました。

千種:今日の句は、(プレバトの)夏井(いつき)先生のご指導とはだいぶ違うと思うんですけどね。テレビで拝見するだけですけど、プレバトの俳句って(事前に題が出て)1句を作り込んでくるじゃないですか。ああいうのと、私たちが今日やった吟行句と、作り方はだいぶ違います?

村上:そうですね。番組の方は全部が全部じゃないですけど、オリジナリティというか、着眼点自体が人とちょっと違うことに重点を置きたいんです。吟行でもそれは多少ありますけど、だからといって今日蓮を詠まないとかあんまりないじゃないですか(笑)。それが人と違うってことではないなと思うんで、蓮とは向き合うけど、みんなが言ってない蓮の言い方ないかなとか、考えていました。いろいろ(ネタを)探したり、表現の仕方とかあるんですけど、結局風があって蓮があったら裏返ると言いたくなるし、少ししか花が咲いてなかったらそのことを言おうってなっちゃうんで、そのへんのバランスはむずかしいなと思いましたね。

千種:どっちが作りやすいですか?

村上:どっちも作りにくいんですけど(笑)。どっちもやっていって、いつか合わさってすごくいいのができたらいいなとは思います。

千種:そうですね、それはみんなが思うことですよね。ありがとうございました!

句会を終えて、村上さんのコメント

 今日はいい場所でした。どんなにきれいな場所でも、意外と2時間も3時間もいられない。でも吟行って目的があると、(俳句のネタが)何かないかなって探すのでいろいろ見られるし、そういう意味で吟行っていいなと思いました。

 今までの句会と違うのが、兼題や席題って着眼点とか、今まで見てきたものとか、自分が持ってるもので勝負じゃないですか。でも吟行って噓がつけないというか、「そんなのなかったでしょ」っていうものは詠めないじゃないですか。そこは(句が)平凡になるかもな、とか思いながらやってましたね。

 今日の尾びれの句は、ふつうに沼を見てたらたまに「ちゃぽん」って鳴ったんですよ。ちゃぽんって鳴ってる時ってどういうことになってるんだろう、って思ったら、当たり前なんですけど水中でものが動いても音が聞こえないから、何かが空中に出てきた瞬間しか音が鳴らないんだ、っていうのを発見して、俳句にできないかなと思って。たぶん家で作っても、魚がちゃぽんって鳴ることに対する映像が浮かばなかったから、実際に見たものを俳句にできて、行ってよかったなと思いましたね。

田丸千種さんから村上さんへアドバイス

 もともとフルーツポンチファンだったので楽しみにしていました(お笑い好きです)。「空掴む」の句を特選にしましたが、他にも「自販機のモーター音」の外し方、「尾びれ出でし音」の切りとりなど、さすが言葉を扱うプロと感心しました。感受性の柔らかさが心地よく、詩的センスは抜群だと思います。

 逆に言えば、あまりにツッコミどころがなく、もうちょっと破綻があってもよかったかなと。吟行句会だから仕方がないのですが、慣れれば同じ着眼でもっとすごいところに飛べる方だと思います。「正統に弾ける」って、かなりなムチャぶりですが、是非吟行を重ねて、これまでにない俳句世界を見せて頂きたいと期待します。(千種)

【俳句修行は次回に続きます!】