まさかミャンマーのヤンゴンで和菓子を食べるとは思わなかった。
ミャンマーを旅した時に、ヤンゴンにある和菓子カフェへ立ち寄った。交通量の多い道沿いに、ひっそりとある「Sweets Seiza」。一歩中に入れば、坪庭があって、畳が敷いてあって、あれ、ここは京都かな?と一瞬錯覚するような、落ち着いた空間。みたらし団子に、だいふくに、あんみつまで。ミャンマー入りしてまだ2日目だったので、日本の味に飢えていたわけではなかったが、出てきた和菓子はなかなかに本格的で驚いた。
オーナーを務めるのは日本人の中原一就さん。29歳の青年だ。一緒にミャンマーを旅していた友人の縁で、紹介してもらった。もともとミャンマーの農村で農業の技術を教えていた中原さんは、3年ほど前から自分でさまざまな事業を立ち上げてきた。失敗を積み重ねて、今年1月、ミャンマー産の小豆などを使った和菓子カフェをオープンさせた。
なぜ和菓子かと問う。てっきり中原さんが大の甘党で特に和菓子が好きだからかと思っていたが、「ミャンマーで誰も和菓子をやっていなかったから」という答えが返ってきた。なるほど、ビジネスマンたるもの、開拓スピリッツが必要か。
中原さんは一方で、ヤンゴン郊外の貧困地域の不法居住者を巡るツアーや、貧困地域へのコメのドネーションツアーなど、社会の課題を見つめるスタディツアーも開催している。その活動への思いについても、和菓子を食べながら熱く熱く語ってくれた。きっと自分の足を動かすこと、人と接することが大好きなのだと思う。「ミャンマー、面白いですよ。僕はまだしばらくはここにいるつもりです」。そんな中原さんの言葉が耳に残った。
中原さんとの出会いで思い出した本がある。太田英基『WORK MODELS 世界で働く日本人から学ぶ21世紀の仕事論』(いろは出版)だ。世界を旅しながら「サムライバックパッカープロジェクト」というプロジェクトを通じて、世界を舞台に奮闘する日本人と出会ってきた、筆者の太田さん。2年間で出会った1000人以上の中から、WORK MODELSと呼ぶべき13人の仕事観についてインタビューしている本だ。これがとても刺激的で、面白い。
海外で働くこと自体はゴールではまったくなく、その先の人生で、キャリアでどんなことがしたいから「海外で働く」という選択肢を選ぶのか。その目的を考えることが、世界を舞台に働く上で、とても大切なことではないかと思います「ワーク・モデルズ 世界で働く日本人から学ぶ21世紀の仕事論」より
外国を旅したり、住んだりすることで得られるものはいろいろあると思いますが、一番大きなことは、これまでの自分が見てきた世界がたった80億分の1の小さな世界だったと気づけるところではないかと思っています。一歩外へ踏み出せば、自分が常識だと思っていたことは非常識で、自分が非常識だと思っていたことが常識だったりする。自分の住んでいる世界の外に存在するであろう80億種類の美意識、モラル、習慣、ものの見方などのうちの、ほんの一部でも知ることができたら、人生はより豊かなものになるでしょう。「ワーク・モデルズ 世界で働く日本人から学ぶ21世紀の仕事論」より
自分の仕事は自分でつくることができる。フィールドは世界にある。そんな本のメッセージがとても響いて、私自身、キャリアチェンジをした時に随分と救われた本の一つだ。今回の旅で、中原さんのように世界で活躍される方と実際にお会いして、仕事に悩んでいた時の自分を思い出し、あぁ、私も頑張らなくてはと改めて思った。なんとも気づきの多い旅だった。