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#50 エピローグ・きっと小さな好奇心だけでいい

バックパックを背負う私。キューバとメキシコに新婚旅行に行ったときの一枚
一人旅をする。一人だからこそ、気ままに空を見上げ、風に耳を傾ける。好きな時に歩き、偶然に人と出逢う。一人だからこそ、投げかけられた一つひとつの言葉の意味を考える余白がある。心が、変わっていく。(42ページ)
これまでたくさん旅をしてきたけれど、始まる前に説明できた旅なんて、ひとつもない。多くの意味はあとからついてくる。「危ないから」「若いから」「女の子だから」。怖がっていたら、冒険なんてできない。大事なのは、選んだ道そのものじゃなくて、その道をどう生きるかだ。小さな好奇心だけで、泣きそうになりながら旅に出た昔の私が、今も私の一歩を応援している。(43ページ)

 14人の女性が「初めて」一人旅に出たときのエピソードをまとめた『女子が旅に出る理由』(いろは出版)という本に、こんな素敵な文章が出てくる。執筆当時、21歳のフリーター中村舞さんが書いた文である。そう、私も、いま、「小さな好奇心だけで、旅に出た昔の私が、今も私の一歩を応援している」と感じる。

 およそ2年にわたって続けてきた、旅先でのエピソードと、心に残った本の中の文を紹介する連載「BackBookPacker」だが、今回でいったん休載させていただくことにした。

 この連載を始めた頃の私は、30歳という年齢を目の前にして、「本当にこのままでいいのか」という漠然とした不安を抱えていた。その不安から逃れるように、新聞記者の仕事をやめて、フリーライターの仕事をしながら旅に出ることを決めた。

 世界一周の旅を含めて、国内外、いろいろなところを漂った。忘れられない景色があり、数々の思いがけない出会いがあり、心躍る瞬間がたくさんあり。世界を旅すればするほど、世界の広さと美しさと奥深さを知り、自分という人間をあらゆる角度から見つめ直すことになった。世界のどこかに正解があると思っていた「私」は結局どこにもなかったのだが、それでも旅に出たことで、私は前よりも自然体でいられるようになって、少しだけ生きやすくなった。情報や常識などいろいろと背負いすぎていたものを、旅が解放してくれたのだと思う。

 旅の中で出会った言葉、旅先で読んだ本の中の一文にも随分と救われた。本を読むことで、行ったことのない風景や誰かの素晴らしい体験を追体験できたし、言語化ができなかった「あのときの気持ち」をまとめることができたし、私の「旅」をより彩豊かなものにしてくれた。

 コロナ禍の影響でなかなか旅に出られない日々であるが、すべてが落ち着いたら、私はこれからもきっとずっと旅を続けたい。また一人旅もしたいけれど、旅好きな夫と、この春生まれたばかりの娘と一緒に旅をするのもいいな。

 今までありがとうございました。