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大澤真幸さん「社会学史」インタビュー 社会学を俯瞰、大胆に再解釈

大澤真幸さん=滝沢文那撮影

個人の問題、世界全体とつながっている

 3月刊行で、600ページ超にも関わらず3万8千部に達した。「大澤さんならではの全体を俯瞰(ふかん)する仕事で、類書がなかった」(担当編集者)。講義形式の読みやすさもあり、幅広い世代に読まれている。

 通常は「社会学者」と呼ばれないマルクスやフロイトに多くのページを割いた。「社会学」という言葉を初めて使ったのは19世紀フランスの思想家コントとされるが、大澤さんは古代ギリシャ哲学や社会契約説などの「前史」から解説。一方で、社会学の方法の基礎を固めたデュルケームやウェーバー、20世紀中盤以降の社会学を先導したパーソンズやルーマンら、代表的な社会学者も踏まえた。

 紹介する思想家と対等に渡り合って、その学説を更新するつもりで書いたという。「偉大な学者でも、それぞれの学説には弱点があったり、主張がわかりにくかったりする。それを補うことを目指した」。別々に語られることが多い思想家同士を結びつけたり他学問の知見を取り込んだりした。

 「社会学」の定義は学者によって違うが、大澤さんは「社会秩序はいかにして可能か、という問いを持つ学問」という立場だ。「資本主義的生産様式から近代社会を分析したマルクスや無意識を発見したフロイトの影響を抜きに社会学史は語れない」と話す。

 マルクスやフロイトを呼び出すことで、社会学の歴史を物語として浮かび上がらせた。各分野の専門家が分担すると「まとまりに欠ける」として、一つの視点から一人で社会学の歴史を書くことが重要だと考えたという。

 一方で、学問としての社会学が成立したのは19世紀以降とはいえ、新書1冊でその歴史をまとめるのはかなりの力業だ。事実関係の誤りへの指摘や解釈への疑問も出ている。「批判も含めそれだけ関心を持ってもらえるのはありがたいこと」と話す。

 戦後、日本の社会学からは、見田宗介さん、上野千鶴子さんといったスター学者が出て、社会の見取り図を示した。90年代には阪神大震災やオウム事件を個人的な事象や文化と結びつけ、宮台真司さん、そして大澤さんが社会を照らした。「小さな出来事が社会のすべてに関係している。なんでも語れる魅力があった」。人文・社会科学の中でも脚光を浴びた。

 ただ、大澤さんは、社会学が90年代後半から、学説や理論の研究が減った代わりに、小範囲の実証研究が増え、その傾向は10年代に入って加速しているとみる。この現状には危機感を抱いている。「社会の全体像が非常に見えづらくなっている。一方で、全体像を知りたいという欲求は高まっている。社会学がそうした要請に応えられているのか」

 自身は、社会を読み解くオリジナルな理論を生み出すことに力を注いできた。社会学者としては「異端」と自任する。「それぞれの人にとって深刻で実存的な問題は、客観的に見ると社会や世界全体の問題とつながっていて、前者は、後者の解決を通してしか解決できない。社会学によって、そのつながりがわかる、ということを伝えたい。そのためにやってきたんだから」(滝沢文那)=朝日新聞2019年8月7日掲載