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李琴峰さん「五つ数えれば三日月が」インタビュー 日本語で執筆、透明な膜隔てるよう

李琴峰さん

 李琴峰(り・ことみ)さんの『五つ数えれば三日月が』(文芸春秋)は、自身にとって初めての芥川賞候補作。結果は次点。選考会では「決してかなわない恋愛を直球勝負で描いた」と評価された。

 1989年、台湾生まれ。第一言語は中国語。祖父母は台湾語を、両親は中国語を話す。日本語を学んだのは15歳から。ポケットモンスターに名探偵コナン、村上春樹、日本の文化に親しんで育った。

 主人公の「私」は台湾生まれ、日本で働いている。大学院で出会った日本人の旧友は台湾で結婚した。友との再会を機に、主人公は故郷での日々を思い出す。

 震災直後、止める両親を振り切って日本にやって来た主人公は自分に重なるという。「ずっと震災のニュースを見ていました。それでも、日本に住みたいと強く思った」。大学3年生だった2011年3月に交換留学で来日。大学院で再び日本を選び、就職でも台湾に戻らなかった。

 創作は15歳から。最初は中国語で書いていた。初めて日本語で書いた短編が17年の群像新人文学賞優秀作を受けた。小説には中国語や台湾語が交ざる。「私は多言語を生きている。その環境を小説にしたら面白いと思った」

 「日本語で書くことは透明な膜を隔てているよう。もどかしさがあるが、だからこそ見いだせる表現もある。漢字、ひらがな、カタカナ。異なる文字が響き合う小説は日本語だからできる」

 デビュー作『独り舞』の主人公も同性に恋をし、孤独を抱えていた。今作でも台湾と日本、二人の女性の親密な交流を繊細に描く。「セクシュアルマイノリティーは私が人生で抱えている大きな問題。これからもずっと書き続けていきます」(中村真理子)=朝日新聞2019年8月7日掲載